数十分前こんなことがあった。

 ざわざわとした空間。

 ここはいつものように多くの学生が利用している駅だ。

 その中に高校2年生の俺も含まれており。今日も同じ制服を着た男女に囲まれつつ電車を待っていた。

 時間は放課後になってから1時間ほどしたところか。

 少し教室で友人と話していたので多分そのくらいだ。

 明日が休みということもありのんびりとしていた俺。

 そんな俺は友人と別れて1人駅のホームで電車を待っていると――。


「あっ、居た居た。先輩ー。待ってくださいよー」


 ふいに横から声をかけられ。俺が声の方を見ると。同じ制服を着ている女子生徒が駆け寄ってくるところだった。


「うん?どうかしたか?」

「いやいや、先輩。何言ってるんですか。今日は私とデートでしょ」

「……」


 先に言っておく。

 俺はこいつ。この後輩とは付き合っていない。

 今俺の横に立った――ちょっと平均より身長低めの後輩。名前はこの後の個人情報保護なんちゃらとなるので――チビ介と言っておこう。

 そのチビ介が笑顔でまるで尻尾が付いていればぶんぶんと左右に振っていそうな感じだが。

 俺からすれば全く身に覚えのないことを言われて困惑中である。

 なお、このチビ介。1年生の学年――いや、2年の方でも少し有名人というか。美少女に入るタイプの為。今俺の周りに居た同じ制服を着た生徒からちらちらと視線を集める事態になってるが――このチビ介が勝手に言っていることであり。俺はマジで何も知らない。

 

「ちょっと、先輩?無視ですかデート忘れてさらに追いかけてきた後輩を無視しますか。いい度胸ですね」

「いや、何も知らないというか。勝手なことを言うな。というやり取りをここ最近かなりの頻度でしている気もするが――」


 実際よくよく後輩に俺はこのように捕まっている。


 そうそう、俺とこの後輩の接点だが。部活が同じ――ではなく。同じ生徒会役員であったりする。

 そう、俺なかなか真面目ちゃん。っていうことはおいておき――って、俺が会計。このチビ介が副会長――って、後輩の方が役職的に上な気がするが――気のせいとお言うことにしておこう。

 とにかく生徒会で知り合ったのだ。

 そしたらだ。まだ一緒に活動するようになってからそんなに長くはないのに――ちょくちょく俺が捕まるようになったのだ。

 何故かは――マジで不明。

 でもまあ学校でもちょくちょく話。実際休みにも捕まることがあり――ここ最近では友人――そうだな。後輩の友人だな。

 ――無駄に懐かれている気がするが――何故か。俺は何かしたとかないのだが――もしかしていじりやすいとか目を付けられたのか……マジか――。


「先輩を振り回してやろうとめっちゃ追いかけてます!」

 

 ……マジで見たいだ。

 やべー奴に俺目を付けられたことを今ここで知った。

 ということで――ちょうどチビ介と話してると電車が駅のホームへとやって来るアナウンスが流れだした。

 この駅は島式ホーム?とか言うんだったか?とりあえず1番線2番線があって。上り下りの電車が同じホームに入って来る。

 そして俺は2番線に入って来る電車に乗る予定で。チビ介は反対。なのでとっとと電車に乗ってやれば――。

 と俺が思っている間にも電車が駅へと滑り込んできて。俺たちの近くにもドアがやって来て――開いた。

 

「ってことで、やばそうなんで俺帰るわ。お疲れーまた来週」


 チビ介に片手をあげつつ声をかけた俺は強制的にチビ介との会話から離脱――と、なる予定だったのだが。


 ガシッと腕をそのタイミングで捕まれた。


「逃がしませんよー?」


 グイっと顔を近寄せてくるチビ介。多分この顔にこんなことを言われるとメロメロ?というのだろうか。このチビ介を好きになる奴も居るだろうが――俺は騙されない。

 そう、今このチビ介が演技をしていることはもう見抜いているからだ。


「……なんでさ。ってか、電車発車するんだけど」

「とりあえず私の家にカモンです!」

「いやいや、なんで!?」

「もうすぐこっちにも電車来ますから」

「いやいや、帰るし。せっかく1週間終わったんだからのんびりさせてくれよ」

「なら私が手料理をご馳走しますから」

「――へっ?」


 この時。

 この時の俺は少しだけ『マジか。こいつの手料理――まあちょっと気になる』と、気になってしまったのだが――この後すぐ後悔が襲うことになるとは、この時の俺はまだ知らない。


「おっ、チョロい先輩がなびきましたね」

「全く」

「今、ちょっと気になるな。みたいな顔してました」

「――いやいや」


 バレちょる。何故だ。そんなに俺顔に出るのか?


「ふふふっ。ってことで先輩。ご自宅に晩御飯いらないとご連絡をー」

「いや、そんな急に言われてもな」

「早く」


 チビ介とそんな話をしていると俺が乗る予定だった電車が駅を発車していくのだった。

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