第12話 2
『考えたね。これなら新一さんも気付かないよ。便利な世の中になったねぇ♪』
『看護師さんはこっそり届けてくれた?』
『
『このやり取りにも制限時間はあるけど、メールならそこまで切迫しないと思う。だから、これで作戦を練ろう』
『作戦?』
『ヒメを病院から救出して、ガラスの駅に送るための作戦』
『ふふ♪ 病院に囚われているわけじゃないけど、カー君が王子様になってくれるんだ?』
『法律に詳しくないし、学校で教わるわけじゃないけど……やろうとしていることは完全に犯罪だと思う』
『うん。そうだろうね』
『ヒメは……後悔ない? お父さんとか……お母さんとか……桐谷とか……』
『茜と言い争ったって聞いたよ? 大丈夫?』
『大丈夫。ほら、桐谷との価値観の違いってだけで、あれは喧嘩の範疇でもないよ』
『カー君に自殺の背中を押させたら、カー君が犯罪者になる……って怒られちゃったんだ』
『そこは気にしないでいいから。後悔は?』
『ないよ。新一さんも茜も私のことを忘れて生きていける。新一さんも私がいるから無駄な人生を歩んでる。断ち切ってあげないと可哀相だもん』
『……わかった。作戦を考えてまたメールするから……見つからないようにね?』
『うん。連絡……待ってるね』
「カー……最近のお前……どうした?」
プリントした階瞬病院の見取り図を眺める生活が続いていた。そんなだから、鐘早と落窪の生活に身が入るわけもなく、授業なんて聞いてないようなものだった。ある日の放課後、黄昏の中でその態度を淳二に指摘された。
「どうって……どう? 薔薇色の学園生活よりも優先するべきことがあるってだけだよ」
最近は草結放送部にボランティアしていない。そのことを淳二は何も言わなかったし、実は放送を楽しみにしていたんです、と言って入部した一年生が俺の役割を継いでくれたから、俺も心置きなく自分の未来に集中していた矢先だ。
「……灰原さんのことだろ? お前……自分の未来はどうでもいいのか?」
「そう言わなかったっけ? 俺は別に未来なんていらない。終わりたいんだよ」
黄昏が傾き、淳二のことを照らした。奇しくも俺は黒で淳二は輝くという構図になった。まさにその通りだったから、俺は思わず笑ってしまった。
「灰原さんを口実に生きることを放棄してる……お前は水晶症候群じゃないんだぞ? 死ぬためには惨い痛みを伴わないと……」
「大丈夫。その惨い痛みとは無縁の最期が見つかったんだ」
「なぁ……お前の死生観はお前だけのものだから、俺にどうこう言える筋合いはない。だけど……お前には不確かでも自由に決められる未来があるんだぞ? これから何が起きるかわからない……灰原さんとのやり取りも若さ故の、という風に思い返すだけになるかもしれないんだ」
「そうかもしれないけど、その未来なんていらないんだよ」
「お前に死んでほしくない……その気持ちを理解してくれないんだな」
「その気持ちは嬉しいさ。俺のことを想ってくれる人がいるのは何よりも嬉しいけど、淳二の未来に俺は必要ないんだよ。何十年生きる中で、淳二にはたくさんの出会いがあるし、いずれ大切な人にも出会う。そしたら俺との二年間も色褪せた思い出になるから……気にしなくて大丈夫だから」
「……そうか」
「……うん。淳二には淳二の人生がある。その大事な人生を俺なんかで止まる必要ないから……さ」
「その病院の見取り図……覚悟はあるんだな……?」
「あるよ」
「なら……二年間の友達としての餞別だ。灰原さんを病院から連れ出すために……手伝えることがあるなら声をかけてくれ」
その提案に俺は面食らってしまった。てっきり高瀬舟を出して叱るんだと思ったが、見据えてくるその目に冗談の翳りはなく、俺は初めてまじまじと見据えた淳二の力強い目に対し、
「……ありがとう」
それだけを告げて、静かに頷いた。
『そういえば……恵君の最期は安らかだったの?』
『それは忍君から聞いたよ。安らかだったけど、心残りはあったみたい』
『まだ小学生だもんね……』
『ガラスのサンドリヨン……凄い気に入ってくれたみたいで、文化祭が終わった後に病室に飾ってもらっていたらしいよ』
『そうだったんだ。最期に希望を与えられたんだったら……一緒に作った甲斐があったね。それにしても……ガラスのサンドリヨンってイイね♪』
『葛城先生がヒントをくれたよ』
『私の名前もヒントだったんでしょう?』
『うん。灰かぶりの姫ってね』
『じゃあ……このサンドリヨンを解放する作戦を教えてくれる? 私の王子様』
『……協力してくれる人が出来たから、きっと上手くいくはず。お父さんは?』
『気付いてない……と思いたいけど、スマホを返してくれって私が言わなくなったことを訝しんでる感じがする』
『危ないかな……。葛城さんは?』
『ガラスの駅のことを話したら……否定しなかったよ。それが望みなら、姫子ちゃんの好きにしたらいいよって言われた。それと……私の死は橘製薬が後ろについてくれるけど、作戦に関しては目に見える形で援助しないって』
『そうか……水晶症候群患者は橘製薬が全て管理してるんだっけ』
『そうだよ。だから……私がガラスの駅で死んでも公にはならない』
『援助はなくても、葛城さんが味方してくれてよかったよ。じゃあ……今から詳しく説明するからね』
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