第6話 2

「あら〜? 君とは初対面ね〜?」


 階瞬に行ってから三日後、淳二の手引きで恵君と再度接触することが出来た。今度は一時帰宅ではなく、垂仁の病院に入院していることが幸いだった。淳二を通した調整で接触日が決まり、恵君は病院にあるというパソコンルームに、俺たちが集う場所は桐谷の家になった。


「初めまして、遠藤淳二といいます。桐谷茜さんにはお世話になっています」


 淳二はきちんとサングラスを外し、玄関から顔を出した桐谷のお母さんにペコリと一礼した。こういった態度が背伸びにも不自然にも見えないのが淳二の凄さだろう。


「あらあら〜榊原君といい灰原さんといい〜ウチの娘と仲良くしてくれて嬉しいわ〜ありがとう♪」


 さぁ、と促されて桐谷家にお邪魔した俺は、指示されていた通りに淳二をパソコン室へ案内した。


「凄い……これは秘密基地だな」


 俺と同じような感想だ。やはりここは男の子心を刺激するようだ。桐谷は小さい頃秘密基地とか作ってたのかな?


 そんなことを考えているうちに、桐谷はパソコンを操ってあっさりとビデオチャットの画面を呼び出した。


「誰が話す? 遠藤?」


「いや、俺が話すよ」


「わかった。相手を怒らせないでよ?」


 失敬な。これでも当たり障りのない会話は出来る。


 それを思って頷いた瞬間には、もう恵君と繋がっていた。


「恵君、聞こえてる? この間はありがとう」


『この間……うん……ありがとう……』


「恵君、ガラスの駅に関しての情報って……君のお兄さんが遺した何かかな?」


『うん……一番のお兄ちゃん……メモ用紙があった……』


「そうか……。そのメモ用紙の引き換えに僕らは何をすればいいかな?」


『文化祭……参加……してほしいの……作品……何か出してほしいんだ……』


「えっ? 作品を出すの?」


『うん……みんなでも……お兄ちゃんたちの一人だけでもいいから……』


「それは何か……条件とかはあるのかな?」


『ううん……みんな……好きなものを出してるから……だけど……水晶症候群がモチーフ……なの』


 確か垂仁の文化祭は十一月の初旬だった。そして鐘早の文化祭も十一月の初旬だった。完全に被ってる。


「恵君の推薦――招待してくれれば垂仁には入れるのかな?」


『うん……僕の……招待者リストにお兄ちゃんたちのこと……書けば……大丈夫……』


「そうか……わかった。何か作品を持って垂仁に行かせてもらうよ。その作品はいつまでに持って行けばいいのかな?」


『十月の……最後までに病院へ届けてくれれば……いいみたい……』


 そこまで言って恵君は疲れたのか、背景にある白いソファーに背中を預けた。この間と比べて水晶が増えた気がする。


「作品、か」


「作品、ね」


 思わず呟いた言葉が重なり、俺は桐谷と目が合った。


『参加……してくれる……?』


「うん。このお兄ちゃんが参加するよ。今度……参加するメンバーの名前を映像で送るからね」


 参加を約束した瞬間、恵君は線の細い可愛い顔に満面の笑みを浮かべてくれた、と思う。


『わかった……淳二……お兄ちゃんが……教えてくれるの……?』


「ああ、俺が連絡するよ」


『参加してくれて……嬉しいよ……ありがとう……』


 こうして恵君とのコンタクトは終わり、淳二が連絡係をまた引き受けてくれた。それと、


「ハモったけど……桐谷さんの考えも同じだろ?」


「展示作品として出せるのは……あれぐらいでしょ」


「カーはプラモがあるじゃないか」


「いや、展示されるプラモデルはもっと凄いやつだって……」


 俺のプラモデルは放り投げ、俺と桐谷の中で展示作品は決まった。


 ヒメを垂仁へ連れて行く必要もないまま、恵君も文化祭を見に来る人たちも満足出来る作品が提供出来そうだ。


「思うことはあるけど……姫子にはあたしから言っておく。あんたも展示出来るプラモとやらを用意しておきなさいよ」


「うぇっ……! 何でよ」


「水晶症候群の人に全部押し付けるの?」


 ぐう。


 カタカタとキーボードを弄る桐谷を背中に、俺はスマートフォンを取り出して通販サイトを開いた。

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