第6話 集約する高瀬舟

『ヒメが倒れた。病院に行くけど、あんたは留守番してて』


 そのメールが届いたのはお昼休みも終わりに近付いた時だった。


 教室内で本を読むという優雅な時間は一瞬で吹き飛ばされ、俺は即座に廊下へ飛び出すと、桐谷がいる二年D組を目指した。だけど、廊下で駄弁っていたクラスメイトとか、階段で駄弁っていた女子生徒の軍勢によって大幅に足止めされた。それでもどうにかチャイムが鳴る前に辿り着いたけど、桐谷本人が教室にいなかった。


 結果、落ち着かないまま放課後を待つことになった。ヒメの状況がわからないままで授業に集中なんて出来ないし、かといってエスケープするわけにもいかず、火で炙られているような状態のまま耐えるしかなかった。


「起立、礼」


 地獄のような時間が過ぎ去り、小林の号令が終わると同時に俺は教室から飛び出した。今度は駄弁りも軍勢も力尽くで突破しようとしたが、


「あっ和也じゃん。なぁ、淳二って今日は休みかー?」


 二年A組から出て来た淳二の友達、太田おおた杉橋すぎはしに呼びかけられた。仕方なくその返事を投げる。


「淳二は昨日から従弟が住んでるどっかに行ってる! 帰りは今日の夕方!」


 それだけを告げ、メールの返信がない桐谷はもう校舎にはいないことを前提とした俺は鐘早を出、波邇夜を出て、階瞬に飛び降りた。


 この間のデートでも水晶化の兆しはなかったし、体力の急激な低下もなかった。ヒメが黙っていた可能性もあるけど、あの楽しみ方からして嘘のようには見えなかった。それでも死が約束されている以上、こういう時が来るということは覚悟していた。にも関わらず、俺の全身は落ち着かないし、心臓なんて飛び出そうとしている。ヒメよりも先に自分が倒れるかもしれない、そんな危機予測なんて無視して、俺は階瞬病院に飛び込んだ。


「あのっ……806号室の灰原姫子さんと面会可能ですか?!」


「806号室……いえ、今は面会拒絶となっています」


 汗だくのままパニクっている学生。その光景に受付の人は確実に引いている。それは周りの人も一緒だろうけど、今は気遣っていられない。


「えっと……どんな症状が出たかわかりますか?!」


 それは外部の人には教えられないと、にべもなく告げられたが、それでも粘ろうとした時、


「すいません、この人……ちょっと混乱していて落ち着きがないんですよ」


 グイ、と俺の肩を掴んで受付から引き離したのは桐谷だ。その顔には苛立ちがはっきり浮かんでおり、俺は大人しくその腕に従った。グイグイ、と俺を人気の無い自動販売機の陰にまで引っぱると、


「あんたってバカなの?! 留守番って言葉の意味がわからないの? わかって来たの? どっち!」


 胸ぐらを掴まれたうえに「ガオー!」という轟音を浴びせながらの壁ドンだ。それでも俺は揺るがない。


「留守番なんてあんまりだ! 心配してこうなるに決まってる……!」


「このバカ! 言葉の意味を察しろよ?! 駆けつけて来るのはあんただけじゃないことぐらいわからない?!」


「あっ……」


「あんたとデートした後に姫子は倒れてんの! あのお父さんが怒りを向ける相手はあんたなんだよ! だから留守番してろってメールしたのに……!」


「ごめん……ヒメの状態ってわかる?」


「体力の低下が始まってるけど……まだ水晶化の兆しは出てない。だけど……この調子で体力とか気力が低下するなら、水晶化する前に垂仁市の病院に移すって話っぽい」


「そうなんだ……良かった……まだ水晶化してないんだ」


「それでもお父さんはカンカンだっつーの……! 外出の件とメールの件であんたが完全に悪者だからね?」


「悪者って……いや、そう思われても仕方ないか……」


「だから今は帰りな……見つかったら何をされるかわからないっての……」


「わかった……ヒメがまだ大丈夫なら大人しく帰るよ」


 状況の悪さに帰ろうとした時、廊下の奥を横切ろうとしていた人影がこっちを見て足を止めた。一瞬、それが灰原さんじゃないかと思った俺は反射的にビクリとしたが、こっちに来た姿を見てすぐに安心した。


「やぁ、ここにいたのか。おや? 君は確か……この間の?」


 覚えていてくれたみたいだ。俺はペコリと頭を下げて自己紹介した。


「僕も自己紹介がまだだったね。葛城郷垂かつらぎきょうすいといいます。よろしくね」


 あの時と変わらない愛想の良い笑みを浮かべてくれた葛城さんは、一度振り返ってから話しを続けた。


「姫ちゃんなら大丈夫だよ。まだ……だけどね」


「葛城さんからもそう言ってもらえて安心しました……」


「ただ……桐谷君からも言われたと思うけど、今の姫ちゃんに会うのは危険だと思うよ」


「はい……もう退散しようと思っています。ただ……その前に葛城さんにお訊きしたいことがあるんです」


 そう言って、俺は恵君との件を説明した。どういう外見か、しゃべり方とかは伝えたが、ガラスの駅に関しては説明しなかった。


「水晶症候群患者である恵君のことを教えてほしい、か……弱ったなぁ」


「ペラペラ話せないのは承知してます。それでも……その恵君のことを教えてほしいんです。名字でも構わないので……」


「悪いけどそれは出来ない。これでも僕は上の立場だ……患者さんのことを軽々と漏洩させたら僕が罰せられちゃうよ」


「そうですか……」


「でもまぁ……姫ちゃんが垂仁の病院でお世話になるのなら、そのお見舞いに君たちが行けるように手配することは出来るけどね」


「それは……」


「さぁ、おしゃべりはここまでだ。冷たい言い方だけど、君たちがここにいても姫ちゃんには何もしてあげられない。今日は帰りなさい」


 そう促され、俺と桐谷は階瞬病院を後にした。ヒメはとりあえず大丈夫だということが直接聞けたことは、ここ最近で一番の安堵感を得られた。加えて葛城さんからちょっとしたことも聞き出せたのは大きいだろう。


「とりあえず……名字はわからないけど恵って子が垂仁にいることは確定したわね。例の文化祭に参加登録とかしてるなら、恵って名前を捜せばいい。だけど……」


「問題はヒメがどうするか……ってとこ? そういえば……ヒメはどうして垂仁に行かなかったの? この間……桐谷さんはヒメが垂仁に行くことを嫌がってけど……何か関係が?」


 そう訊いた瞬間、桐谷は足を止めた。後ろに通行人がいなかったことが幸いだ。


「姫子が垂仁まで行かないのは……あたしがいる……から」


「それは……どういう――」


「だからっ……あたしがそれを拒んだの!」


「…………」


「水晶症候群に抗えないのはわかる……わかってる……! だけどさ……姫子があそこに行ったら……それは……」


 口籠る桐谷の横を、何を知らない自転車が通り抜けた。


「それを認めたら……あたしは……友達のために何も出来ない奴になる。無駄な足掻きでも……最後の最後まであたしは足掻きたい……諦めて姫子を差し出すなんて嫌なの!!」


「でも……それは桐谷さんの意地だろ? 友達想いなのは充分にわかったけど……それって……」


 脳裏に浮かぶのは、無理矢理な延命措置を施されて植物のまま死んでいる人たちの姿だ。特に九十過ぎの親戚が病院でチューブ塗れにされていた光景が浮かんだ。あれは生きていると言えるんだろうか。それを促していたのは、死んでほしくないと願う家族だった。


「それはヒメの意見を尊重してる? ヒメが望んでるのは水晶症候群の前に死ぬことでしょ? 俺や桐谷さんがいくら望んでも……ヒメは死ぬこと以外に希望を見出してないよ……」


 プロポーズした幼なじみと再会しても、こうして自分のために必死になってくれる幼なじみがいても、考えは変わっていない。


「……だから時の流れに任せましょうって? 冷たいね」


「……自分でも冷たいと思う。だけど、桐谷さんとは死に対する認識が根本的に違うんだ。見たことある? 自分の意思で選べない死とか無理矢理の死とか……生きていることを蔑まれるほどの長生きとか……生きるって全部が綺麗なことじゃない。死が希望で最期の自由になるってことはあるんだよ。それを知っているか……見て来たか……それで生と死の価値観は変わる……」


 桐谷家は幸いにもそういう光景とは出会していないんだと思う。お母さんの態度とやり取りを見ていれば幸せな家庭だってことはわかった。もちろんそれを否定する気はないし、どうこう言うつもりもない。ただ、全ての命が生きることを幸せだと思っているわけじゃないことを知ってほしいだけだ。


「じゃあ……あんたも死にたいんだ」


「……痛いのも苦しいのも嫌だから生きてるだけ。ただ生きてるだけ人生に価値も意味もないし、水晶症候群だろうがガラスの駅だろうが……どっちも俺は歓迎してる」


「歓迎って……」


「水晶症候群じゃなくても……桐谷さんがいても、俺がいても……ヒメの考えは変わらない」


「……あんたは? あんたは姫子がいても……死にたいの?」


「……そうかな」


 その答えに桐谷はかぶりをふった。バカな奴、と思われていることはわかるけど、自分にとってこの世には何も意味がない。意味がある人は懸命に生きればいい、意味がない人は早送りすればいいだけだ。


「……そう」


 それだけ口にした桐谷は、また歩き出した。行き場所は一緒だから、気まずい沈黙のまま階瞬の駅まで歩き、同じ電車に乗った。


「…………」


「…………」


 続く気まずい沈黙。だけど間違ったことを言ったわけでも、桐谷の意見を全否定したわけでもない。だからこの沈黙は互いに冷静になるための……。


「よう、奇遇だな」


 地獄に仏とはこのことか。基本的に人見知りとは無縁の淳二が隣の車両から入って来てくれた。


「あらら? えっと〜桐谷さんだっけ? デートか?」


 最悪な冗談。


「んなわけねぇでしょ!」


 桐谷の鋭い一瞥が淳二のサングラスを割った。どうしてこう……普段は言わないような冗談がこのタイミングで飛び出すんだろうか。


「ちょっとした用事の帰り。そっちは……何を?」


 詳しい話は求めなかったから、知ってるのは従弟の所へ両親も含めて飛んだことぐらいだ。今でも従弟家族とは仲良しで、家族ぐるみの付き合いだそうだ。そういった付き合いのある親戚とか従弟の存在は今じゃ珍しいだろう。


「従弟が水晶症候群でな……昨日の夜に急変したもんで俺たちも飛んだんだ。俺の弟みたいなものだからな」


「急変……水晶化か?」


「いや、水晶化はもうとっくにだ。またクラスターが出来て意識が朦朧だった。その辺の輩に殴られた所為で精神的なショックと――」


「殴られた? 待った、淳二……従弟の名前って……教えてもらえるか?」


遠藤恵えんどうめぐみだけど……会ったことでもあるのか?」


 その名前に桐谷も振り返った。


「もしかして……こう……拙い感じでしゃべる可愛い小学生の男の子か?」


「っ? どこで知った? カーに従弟の話なんてしてないだろ?」


「兄貴っているか? こう……鋭い顔立ちの」


遠藤忍えんどうしのぶって中学生だ」


「マジか……こんな足下に関係者がいるなんて思わなかったな……」


 そう言って額を押さえた時、波邇夜駅に着いた。


 首を傾げる淳二の腕を引っぱってホームに下りた俺と桐谷は、ここに至るまでに経緯を全て説明した。当然、ガラスの駅に関しても淳二は不快を示したが、それでも全部を聞いてくれた。


「なるほど……その実況に関して知りたいわけか。しかも……灰原さんを殺すためにね」


「言い方に悪意がある。さぁ、どうぞガラスの駅でございます、とは言わないよ」


「どうかな。理由はどうあれ、カー……お前がしようとしていることは自殺幇助だと言われてもおかしくないと思うぞ? 正気とは思えん」


「俺は正気だよ。ヒメの意思を尊重しているだけ」


「それでも危険だ。高瀬舟……お前の末路だぞ?」


 淳二はそう言って腕を組むと、高瀬舟について教えてくれた。状況も時代も背景も違うが、とある登場人物の行動は俺の現状によく似ている気がした。物理的に俺がヒメの命を終わらせるかどうかというわけだ。それに、


「ガラスの駅が実在して、本当に人を黄泉送りにするってことが確定したらだろ」


「あんたの末路なんてどうでもいい。遠藤、恵君にコンタクト出来る?」


「出来ることは出来るが……お前たちだったとはな。忍はカンカンだぞ? 水晶症候群を、人の不幸を嘲笑う奴らが接触して来たってな」


「そこは誤解だし、弁明が必要ならその忍君にも会わせてよ」


「……さて、どうしたものかな」


「頼むよ……恵君がガラスの駅について知ってるみたいなんだ」


「それは……知ってるだろうな」


「えっ?」


「忍と恵には俺より年上の兄がいた。例の実況者というのはその兄――遠藤猛えんどうたけるだからな。だけど……その詳細は俺も知らない。それだけは……俺の家族でも訊けない」


 淳二はそう言うと、教えてくれた。辛うじて知っていることを。


 初めてガラスの駅が実況された二00五年。当時十五歳だった猛氏は、趣味だった雪山の写真と映像を撮るために一人でとある雪山に向かった。その後は実況にある通りだが、続きがある。


「翌日になっても猛さんが帰って来ないのを心配した伯父さんは警察に届けようとしたそうだが、その矢先に猛さんが帰って来た。服はボロボロ、口は貝殻みたいに結ばれて、何が起きたのか訊いても何も答えなかったそうだ」


「その人は……今?」


「もう死んでる。帰って来た数日後に自殺したそうだ。遺書は無し、心当たりもなし……その時は大変だった。四歳の俺でもあの葬式での雰囲気は嫌だったから、母親にずっと抱っこしてもらっていた」


「恵君はまだだよな?」


「ああ、忍がまだ一歳の時だからまだ生まれていない。それだのに……どうしてガラスの駅のことを……」


「それがあったから淳二は都市伝説を?」


「それもあるが……決定的なのは違う。俺の父親、遠藤家は三兄弟なんだ。長男の家が猛さんと忍と恵の家、次男が俺、三男の家に遠藤和香えんどうわかという従姉がいた。和香姉さんには小さい頃にずいぶんと優しくしてもらった。だけど……彼女が十八歳の時、二0一四年……オカルトにハマった彼氏に殺されたんだ」


「それは……」


「遠藤家は都市伝説もオカルトも御法度だ。加えて恵が水晶症候群を理由に殴られたからな……今は三家全員がピリピリしてる。お前たちの接触を拒むのも納得出来るだろう?」


「胸くそ悪い話……」


 桐谷がそう唾棄したくなる気持ちはわかる。むしろ、淳二とか恵君が荒れていないのが不思議なくらいだ。だけど、


「それでも……俺はガラスの駅のことを知りたい。俺たちが絶対に知らないことを教えるって言った以上、淳二たちも知らない何かがあるんじゃないか? 冷やかしで関わっていないし、その引き換えに俺たちは恵君の要求に協力するって話なんだよ」


「垂仁の文化祭か……参加することは聞いたな。わかったよ……」


「ありがとう。恵君には?」


「俺から伝えておく」


「わかった。それじゃあ……遠藤のアドレスを」


 淳二と桐谷も互いのアドレスを交換し、波邇夜駅から出た。


「もう暗いな。桐谷さん、送っていこう」


「いいよ、一人で帰れるって」


「何があるかわからない世の中だ。一人で帰らせたら後悔する」


 そう言って淳二は桐谷を家まで送ることを主張し、俺も一緒になって彼女を家まで送り届けた。「……ありがとう」という素直な感じの感謝に淳二はサングラス越しの笑みを返していた。


「灰原さんを大切に想っているんだな、彼女」


「まぁ、そうだろうな」


 帰り道は暗い。息をしていない波邇夜の夜は深く、時々のヘッドライト、テールライト、民家の木漏れ日、まばらな街灯、闇を恐れた末の光にも関わらず、ここの生命体は闇に溶けたいようだ。隣を歩く淳二の顔すら怪しい。


「カー……いや、ここでは喜助きすけさんと呼ぼうか?」


「何だよ……庄兵衛しょうべえさん」


「あの時の続きだ。お前、もしガラスの駅がお望み通りだったら……どうするつもりだ」


「お望み通りだったら……どうしようか」


「おい、茶化すな。進路相談よりも遥かに大事な話だと思って聞けよ」


「聞いてるさ」


「俺に言ってないこと、桐谷さんにも言ってないことがあるだろう」


「話したさ、全部」


「莫迦にするな。まだ一年ちょっとの付き合いでも、同じ部屋で寝起きしてるんだぞ。お前がガラスの駅に逆上せてる理由を察せないほど朴念仁じゃない。お前、灰原さんを出しにして自分のためにガラスの駅を調べてるんじゃないのか?」


「…………」


「お昼の放送でガラスの駅について自分から訊きにいっていた時点で察したが、もしそれが本心なら……やってることはずいぶんじゃないか?」


「ずいぶんじゃないだろ? ヒメだってガラスの駅がほしくて俺にお願いしたんだ。俺がガラスの駅を勧めたならずいぶんかもしれないが、それに乗っかったっていいだろ」


 真正面を向いたままそう告げると、グイ、と肩を掴まれて視線を合わさせられた。サングラス越しでも怒っていることがわかる圧がそこにはある。


「死にたいと思うのも、死のうとするのも個人の勝手だよ……! だけどな……その勝手な行動で泣かせる人たちがいることぐらい……わからないか? 三日も経てばいつもに戻るから……なんて言ってみろ。その時は……」


 淳二は口を閉じると、俺の肩を放した。


「お前の家のことも知ってる……死生観も知ってる……それでも俺は……お前が死んだら悲しむんだ。何もかもに挑んで……本当に後悔も後腐れもない人だけが自分で死の道を選べる。十七歳の子供が……人生の全てを見て来たつもりになるなよ……まだ始まったばかりだろ? 今のお前は現実を痛みなしで終わらせられる幻想を追ってはしゃいでいるだけだ……」


「痛烈だな……」


「耳の痛いことは……本人にとってプラスになる痛みらしいぞ」


「幻想を追ってはしゃいでる、か……」


「この命を安易に終わらせないために痛みがある。不老不死と一緒だ。死なない命を誰が大事にする? 痛みのない死があったら誰が生きる? 全て意味があっての痛みと寿命なんだよ」


「じゃあ……淳二は何があっても生きろと?」


「ああ。ただし……その生きるって言葉の使い方が違うけどな。俺にとって生きることは、意義とか目標があって達成するか近付くことだ。あれをしたい、これをしたい、そのためにがんばろう……当たり前だろう? それだのに自分で動かずに世間や社会の悪口を言ってるような奴は命と人生の無駄遣い野郎だ。そんな奴らに、生きてほしいと願う人なんているわけない。でもお前は違うだろう? ただ見つけられないだけ……だから生きてみろ。見つけられるように自分から動けよ……!」


「まぁ……投げやりにはならないようにするよ」


 それでも、俺に人生を生きる意味は見出せない。強いて言うなら……それを握っているのがヒメとガラスの駅なんだろう。この二つによって、俺の生殺与奪は決まるのかもしれない。


 横を通り過ぎて行った久しぶりのヘッドライトを見送り、俺と淳二は気まずい空気を連れて落窪に帰った。

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