第2話


「……」


 その日の夜。久しぶりに戻った寮でイリーナは一人窓の外を見ていた。


 ――結局「答え」は聞けなかった……という事で良いのよね。


 アリアに「キュリオス王子」の事を尋ねたが、彼女は一瞬困惑したようすではあったものの「友人」だと答えた。


 しかし、今までの彼女であれば「困惑」する前にすぐ「友人」だと答えていたはずだ。


 ――それなのに今日は違った。


 キュリオス王子が彼女をどう思っているかは分からないが、少なくとも彼女に対して「特別な感情」を抱いているのは間違いないだろう。


 ――それはずっとそうだもの。


 ただ、それが「恋愛感情」かどうかまでは謎のままである。


 そして、彼女の場合は「男爵令嬢という立場の自分がそもそも王族の方と友人関係だなんておこがましい」という気持ちからか昔からどこか一線を引いていた。


 ――でも、今日の反応を見るに……。


 彼女自身戸惑いはあるものの、どこか気持ちに変化があった様に思う。しかし、彼女自身がそれに気が付いていないのか……はたまた気が付いてはいるものの認めたくないのか……そこまでは分からなかった。


 ――そういえば、この『星空会』って昔から「ジンクス」があったのよね。


 これは結構有名な話であるため噂話などに興味のないイリーナもうろ覚えながら知っている。


 ――確か、ゴールする時に手をつないでいるとその人と結ばれる……だったかしら?


 ちなみにこの「ジンクス」は何も異性間のみの話ではない。同性の友人であれば「ずっと友人でいられる」という事もある様だ。


「……」


 ただ、この話はあくまで「ジンクス」であり、要するにおまじないの一種の様なモノだ。


 つまり信じるも信じないもその人次第というワケなのだが……。


 ――昔からみんなこういう話って好きなのよね。


 以前のイリーナであれば外からそういった話に夢中になっている令嬢たちを見ていたが、アリアやキュリオス王子と話す様になり、ほんの少しだけ興味が出始めていた。


「失礼致します。お嬢様、お茶はいかがでしょうか」

「っ! あ、ありがとう」


 そんな事を考えていたタイミングだったせいもあり、突然現れた様に見えたフィーユを見て思わず驚きそうになってしまった。


「どうされましたか?」

「ん? ああ、ちょっと今度の学校行事について考え事を……ね」


「そうでしたか。課題を制限時間内にクリア出来なければ退学……でしたね」

「ええ。正直何が出るか分からないけど、対策をしておいて損はないかと思ってね」


 そう言いながら今日出された課題に目を向けると、フィーユは少し考える様な素振りを見せ、ふいにイリーナを方を見つめる。


「どうしたの?」


 その態度を不思議に思ったイリーナが尋ねると、フィーユは「実は……少し気になる話を耳にしまして……」と答えたのだった。

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