第二十三章 ジンクスにて

第1話


 そしてあっという間に休暇は終わり、学校に登校したのだが……。


 ――思ったよりも早く来てしまったみたいね。


 思っていたよりも自分が久しぶりの学校にテンションが上がっていた事に気がつく。


「クッ、クローズ様」


 そんな自分に笑いそうになっていると、驚いた顔のアリアが立っていた。


「おはよう」

「おはようございます。早いですね」


 アリアもきっと「思いのほか早く来てしまった」と思っていたのだろう。


 ――でも思わぬ先客がいて驚いた……ってところかしら?


「今日から上位クラスで授業を受けられると思うとね。少し気持ちが急いてしまったみたい」


 ――我ながら口にすると恥ずかしいわね。


 そう言うと、アリアは「そうなんですね」と笑顔を見せる。


 恥ずかしいとは思ったものの、笑ってくれたからよしとしようとイリーナはそう思う事にした。


「本当にあなたには感謝しているわ。私一人の力じゃとても……」

「いえ、私はちょっとお手伝いをしただけです」


 アリアはキッパリそう言われ、イリーナは思わず「控えめなのね」と笑ってしまう。


 ――でも、彼女もキュリオス様にも感謝しているのは事実だもの。


 だからこそお礼を言いたかったのだ。


「……」

「……」


 ――さて、ここからどうしましょうか。


 イリーナとしては言いたい事は伝える事が出来た。しかし、正直アリアの様子を見ると……。


 ――何か聞きたい事があるみたいね。まぁ、何となく分かるけど。


 何せ休暇中にアリアとは長期休暇の間一度も会っていない。それだけに気になるといったところだろう。


 でも、イリーナしては本当はちょっとだけ「王宮に来ているのだから、バッタリ会うなんて事も……」なんて淡い期待があったが、そんな事はなかった。


 ――でも、この子もご家族と会っていただろうし。


 それは長期休暇も間は誰でもそうだから気にしていないと言えば気にしていないのだが……。


 ――でもまぁ。


「――休暇中……」


 そんな重い沈黙を破る様にイリーナはポツリと呟いた。


「は、はい」

「手紙をくれてありがとう」


 イリーナは穏やかな笑みをアリアに向ける。


「い、いえ。そんな……」


 そう。実はアリアとは文通をしていたのだ。


「とても嬉しかったわ。何せ、今まで私にそんな事をしてくれるお友達は……いなかったから」


 キュリオス王子は「友人」と言えば「友人」になるのだが……。


 ――普通の「友人」と言うのは……ちょっと違う気がするのよね。


 だからこそ本当に嬉しかった。


「でも、ごめんなさい。どう返事を書けばいいのか分からなくて……返事が遅くなってしまったわ」

「いえ、そんな……お気になさらず」


「キュリオス殿下にも『あまり遅いのは良くない』って言われてしまったわ」

「あ……。そ、そうなんですね。キュリオス殿下が」


 ――あら?


 イリーナとしては何気なく「キュリオス王子」と言ったのだが、アリアの反応はいつもと少し違った様に見えた。


「大丈夫?」

「え、はい。だ、大丈夫……です」


 アリアはそう答えているけど……イリーナとしては「――本当にそうかしら?」という気持ちからジッとアリアを見つめる。


「? あの、何か……」


 アリアは少し引き気味になっていたが、イリーナとしてはこの際もう少し聞きたいところ。


 そこで「ねぇ」と言いながらイリーナはそのままズイッと顔を寄せ……。


「アリアは……殿下の事、どう思っているの?」


 小さく……とても小さく二人しかいない教室小でもアリアにしか聞こえないくらい小さい声でそう尋ねた。


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