第4話
アラームの音が激しい頭痛を誘発していると思った。でもアラームを消してしばらくしても頭痛が止むことはない。また生々しい夢を見た。伊藤を絞め殺す夢。伊藤は自分のミスを僕に押し付けて、僕が女子トイレを覗いているなどのありもしない事実をまき散らした陰険な奴だった。
夢で殺せただけで充分だろう。さすがに二日連続で自分の恨んでいるヤツが死ぬみたいな都合の良いことを信じられることはできないし、信じるほど馬鹿じゃない。ラブホテルで未成年と浮気の果てに死ぬことほど恥ずかしいものはないだろうけど。
頭痛が止まらないし、動悸や息切れも激しい。体温計で測ると三十八度を超えていた。会社を休みたい。でもちょうど業務が溜まっていて、一日でも休むと取り返せなくなる。他の人に頼むようなこともできない。課長や伊藤、あと安達のせいでみんな僕のことを避けている。
歩くほどに悪寒が激しくなって、真夏なのに、分厚い下着を着こんだ。汗をかいているが寒くて顎が震える。ようやっとの思いで職場に到着した頃には始業を二分前に迎えていた。伊藤はまだ来ていなかった。
もしかして、いやそんなわけない。息切れしながら席に着くと、課長のときと同じような表情を浮かべた部長がやってきた。
「俺も、どう説明すればいいかわからんが、伊藤くんが、昨日、亡くなったらしい。ショッキングな事件が続いて不安だろうが何とか平常通り業務を続けてほしい」
部長が去ったあと、僕の後ろに座る人の会話が聞こえた。
「伊藤さんってラブホで浮気してるときに死んだらしいよ」
「それって腹上死ってやつじゃない?」
「それも相手中学生らしいよ。きしょいよね」
鼓動が大きくなった。動悸ではなかったはず。ラブホテルで腹上死。昨日見た夢で僕が殺したから伊藤が死んだ? 僕は夢遊病か何かだろうか。そうだとしたら指紋か何か証拠が残って今頃こんな所にはいないはず。とすれば、生霊? 僕の生霊が課長と伊藤を殺したのだろうか。だとしたらこんなに完ぺきな犯罪はないだろう! すごい力を手に入れてしまった。朦朧とする頭で興奮が滾っていった。
僕は寝ているときに殺したい奴を思い浮かべると生霊になって殺しに行けるんだ。でもたぶんその代わり、自分の身体にダメージが大きい。
結局僕はその日、一日働くことができず、部長に許可を仰いで早退することにした。壁にもたれながらエレベーターを待っているとき、安達が僕の前に立った。
「お前が殺したんじゃねえのか。卑怯なやつ」
二人も死んだ日に、こいつはろくでもないことを言うな。でも何か口に出せば胃の中のものがせり上がってきそうなので、聞こえないふりをしていると、粘着質な舌打ちをされて職場に戻っていった。
今日は安達だ。必ず殺してやる。もう自分がどうなってもいい。
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