第3話

 社宅の一階にあるコンビニでビールを三本買った。明日は火曜日だが、課長の死を祝わずにはいられない。課長の死=土下座からの解放なのだから。一気飲みしようと思ったが、舌に苦みを感じて一口だけが喉を通った。アルコールの不快な臭気がゲップしたせいで香ってしまった。それでも僕は飲めないビールを無理やり喉に押し込んだ。

「あーまずい、最高!」

 鼓動がどんどん大きくなっていく。顔や耳が熱るのを感じる。鏡を見れば真っ赤になっているだろう。しかし、思考は正常だった。正常であるがゆえに山口への怨念がまたよみがえってくる。

「今日は山口を殺す夢でも見ねえかなあー。課長みたいに殺してやるのに」

 身体がだるい。猛烈に怠い。アルコールの疲れだろうか。いつもよりも疲労感を纏っている気がした。それにつれて瞼もどんどん重くなっていく。ここは自宅なのでいつでも寝てもいい。ベッドに移動するのもおっくうでテーブルに突っ伏しているうちに意識を失った。

 照明が赤くて、もともとの壁の色が何かわからない。ベッドの頭付近には虹色に彩られた壁があった。そのベッドには伊藤と見知らぬ女が裸で眠っている。伊藤の薬指には銀色の指輪がはめられているが、横の女はどう考えても伊藤の嫁ではなさそうだった。それどころか顔立ちが幼くて未成年である可能性すらある。

 気持ち悪い。ただこの感想しか出てこない。アルコールのせいではない。枕元には先端が括られたコンドームが二つあった。ずっと浮遊感のある僕は実際の身長からというよりかは天井から全裸の二人を見下ろしている。でも伊藤に近づこうと思えばすぐに近づくことができた。

 ここで伊藤が死ねば面白いだろうな。僕は伊藤の首に手をかけた。ゆっくりと力を入れていく。伊藤が目を覚ますが、すでに指が喉に食い込んでいて伊藤からは声が漏れない。舌が異様なほど出てきて目玉が赤く血走り始めたあたりで伊藤の抵抗力はなくなった。

 未成年のような幼い顔立ちの女は規則的な寝息を立てつづけている。徐々に僕の視界が白く混濁していき、眠気に襲われた。

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