9話

 勢いよくドアを開けすぎたのか、すでに教室の中にいた人がいっせいに私たちのほうを向く。正直ちょっと気まずかった。


「おはよー」


 何もなかったかのように挨拶をする愛美を見て私は感嘆せざるをえなかった。できるならそのメンタルを見習いたいところだ。


 私の出席番号は2番だったので席はドアを通ってすぐのところにあった。荷物を置いてから軽く辺りを見渡す。愛美は5番だったはずなので二つ後ろの席のはずだけど教室の後ろのほうで人と喋っていた。


 コミュニケーション能力の差ですかね……。


 特段することもないのでかばんから文庫本を取り出して開いた。私は陰キャではないと思いたい。


 それから15分くらい経っただろうかクラスメイトが席に着きだしたとき、おもむろに教室の扉が開いた。


「おはようございま~す」


 めんどくさそうな声で欠伸をしながら入ってきたのは小柄な女の先生だった。


 こんな人で大丈夫かなという声が周りから聞こえてくる。正直私もそう思うけど、この学校の担任を務めるくらいだから優秀なのだと思う。


「じゃ、とりあえず入学式あるんで体育館行きま~す。廊下並んでくださ~い」


 ……本当に大丈夫でしょうか。


 とても不安になってきた。けど今は新入生代表挨拶に集中しなければならない。


 速やかに廊下に並んで体育館に向かう。こういうところで変にざわざわしたりしないのはさすが聖女の生徒といったところだろうか。


 しばらく歩くと体育館が見えてくる。校舎が広すぎるせいでかなり遠いのは言うまでもないと思う。


 体育館には椅子が並べられていてすでに来ている4組の後ろに座らされた。そこからしばらく待つと6組と7組が来て入学式が始まった。


 新入生代表挨拶を無事に終えることができたので安心した状態で残りの式に望むことができた。


 式が終わるとすぐ教室に戻ることになる。


「じゃあ委員長決めま〜す」


 席に着くとすぐに次の授業が開始する。3年ぶりの入学式はずいぶんと忙しい。

 いや、もしかしたら中学校のときの入学式もこんな感じだったのかもしれない。


 まあ、あのときは無理やり委員長を押し付けられたけど。


「はいは〜い! 私やりたいです」


 立候補の声が聞こえてきて胸を撫で下ろす。


 委員長をすることに意味がない訳では無い。聖女では成績というのは何よりも重視されていて、委員長などのリーダ的役職は多くの内申点を貰える。


 そういう意味ではメリットも大きいのだと思う。


 しかし、やるなら後期、もしくは2年生3年生になってからでも遅くはないと思う。


「じゃあ決定でいいか〜?」


 クラスメイトたちが同意を示すような言葉を口にする。


「じゃあ決定な〜。あとよろしく〜」

「はい! 任されました」


 事前にもらったプリントに書いてあった予定を思い出す。


 残りは委員会決めと教科係決めだけのはずだ。


「委員長になりました。桐生院愛美です。よろしくお願いします!」


 心臓が跳ねる。


 委員長にはなりたくないとばかり考えていて誰が委員長になったかを意識に入れていなかった。


 その後は愛美の進め方が良かったのか、流れるように進んだ。


 私は正直どこでも良かったので余りものを選んでいたら、放送委員と数学係になった。

 放送委員って中学の時は人気あったからなんでだろうと思っていたけど、愛美が言うにはこの学校の放送委員は異様に仕事が多いらしかった。


 自分で選べば良かったな、と少し後悔したのは誰にも言わないほうが良いだろうと思う。

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