8話

 電車に乗って空いていた椅子に座る。


 みみは私の右斜め前に座ることなく吊り革につかまっていた。視線に入っているからか、愛美との話に集中することができない。


 せっかく同じ電車に乗っているんだから話しかけたいけれど、私はみみにお礼がしたいだけだから愛美を巻き込むわけにはかない。


 もやもやとしているうちに学校の最寄り駅について私たちは電車を降りる。みみはここの駅で降りなかったので聖女の近くの高校ではないらしい。


 なんかストーカーみたいですね、私……。


「ねえ、涼!」


 愛美が嬉しそうに声を上げる。


「どうしました?」

「聖女! おっきくない!?」


「写真で見るより大きいんだけど!」とはしゃいでいる愛美を横目に私もまっすぐ前を見る。


 ……まあ、入試のときに一度見てるはずだけど。


 まだ100メートルくらいは離れてると思うけどそれでもかなり大きいことがわかる。

 グラウンドは正面から見える校舎の裏側にあって写真で見た限りではかなり広く多くの施設があるらしかった。


 というか通うだけでも結構お金がかかるのに小さかったら困る。


 まあ、私は首席で特待生だから全額免除ですけど。


「クラスの確認ってどこにできるんだっけ」

「正門をくぐってすぐのところに張り出されてると思います。というか事前にプリントに書いてあった気が」

「次席のくせに知らなかった私をバカにしてる?」

「あ、いえそういうわけでは」

「さっきからバカにしすぎじゃない?」


 バカにしてるわけじゃないしそう伝わればいいけど多分どれだけ頑張っても信じてくれない。


「まあいいや。私後ろの組から見てくから」

「わかりました。では私は前から」


 1組、2組と順番に見ていくが、なかなか見つからない。


「あったよ!」


 愛美が嬉しそうに声を上げる。なんとなく次の言葉が想像できた。


 涼も同じだったよ! でしょうか。


「涼も同じだったよ!」


 全く一致していたことがなんだかおもしろくて、抑えきれずに笑ってしまう。


「どうしたの?」

「なんでもありません。何組でしたか?」

「5組だった」

「わかりました。じゃあ行きましょうか」


 愛美は「うん!」と大きく頷くと楽しそうに一歩目を踏み出した。


「廊下も広いね」


 愛美の話にいい感じに頷きながら主席と次席を同じクラスにした理由を考える。


 一年生は7クラスあって私たちは5組という中途半端であることを考えると成績の良い人がまとめられている可能性はないわけではないけどかなり低いと思う。


 というか、聖怜悧女学園せいれいりじょがくえんに入学できるということはイコール好成績ということだから成績面で差ができることを心配していないなのかもしれない。


 であれば運動能力か? と思ったけれど現状学校側は細かい部分を把握しきれていないはずだからそれもないのだと思う。


 だんだん考えることが無駄に思えてきて自分の思考を無理やり打ち切る。


「あそこじゃない?」


 愛美がドアの上に掛かっている1-5と表記された板を指差した。


「そうみたいですね」

「なんか緊張してきたんだけど……」


 愛美が心臓のあたりに手を合てて軽くさすっていた。


「大丈夫ですよ。愛美さんなら誰とでも仲良くなれます」

「そうかな、そうだよね、うん。いけるいける」


 どこから自信がわいてきたのか急に元気になる愛美を見て私も緊張がほぐれる。


「よし、行こう!」


 愛美は気合を入れなおすように大きく深呼吸をしてから強くドアを開けた。

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