7話
遅刻しそうな時間であることを思い出して、駅まで早足で歩く。
改札を通り抜けて駅のホームで待っていると電車が目の前を通り抜けて強く風が吹いて、制服が揺れる。
今日は少し寒いですね……。
こういうのを考えるとロングスカートで良かったのかもしれないとも思う。
「ねえ」
薄めのコートでも羽織ってこれば良かったかな。そんな事を考えていたときだった。
「ねえってば」
肩を掴まれる。
「私ですか?」
「そうそう。君だよ」
そこにいたのは軽く茶色が入ったボブの少女で、同じ制服を着ていた。
「聖女だよね?」
「そう……ですけど」
「一緒に行こうよ」
断る理由はないけど初めましての人と2人でとなるとさすがに気まずい。
「ね、行こうよ」
さっきから距離感が少しおかしい気がしないでもないけど目的地が一緒だし、拒む理由もないかなと思う。
「わかりました。一緒に行きましょう」
彼女は嬉しそうにガッツポーズをする。そんなに嬉しいものなのだろうか。
「聖女ってことはやっぱ頭いいよね?」
「まぁ……一応新入生代表ですけど」
「え!?」
なんでそんなに驚くんだろう。たまたま会った人が首席で新入生代表なんて、ないことではないと思う。
「私次席だったんだよね」
そこでようやくなるほどと納得する。
「それは、すごいですね」
「バカにしてる?」
「し、してないです。してないです」
「してるよね? 君首席だよね?」
してないです。そう言おうとしたときだった。
目の前を見覚えのある真っ黒な髪色が綺麗で、目つきが鋭くて周りに威圧感を与えている少女が通り抜けた。
――制服は聖女のものではなかった。
声が出そうになるのをなんとか抑える。ここの駅にいるということは家が近くだということで、これからも会う可能性が高いということだ。
今日は一旦この同じ学校の人と、そう考えたところでそういえばと思う。
「そういえば、名前なんていうんですか?」
「あ、そういえば自己紹介してなかったね」
こういうときはまず自分から名乗るものだ。
「私は一条寺涼と言います」
「一条寺!? それってあの?」
「は、はい……そうですけど」
「こりゃすごい人と会っちゃったな……」
すごいのは私の親で私じゃない。そう思うけれど、それを指摘しても嫌味にしか聞こえないことはわかっている。
コホンと一度仕切り直すように咳払いをして次席の少女は続ける。別に次席を馬鹿にはしていない。
「私の名前は
「き、桐生院ですか」
「どうかした?」
桐生院って、すごい――
「かっこいいですね」
「バカにしてる?」
「してないです」
「やっぱりさっきからバカにしてるよね?」
「してないですしてないです」
愛美は不貞腐れたように言う。
「桐生院なんてかっこいいだけだもんね」
「そんなことないですよ! かっこいいじゃないですか! 桐生院!」
「カバーになってないよ……」
「……申し訳ないです。今の私の語彙力ではカバーできません。もっと勉強します」
「やっぱりバカにしてるよね?」
そこで、強く風が吹いた。電車が来た合図だった。
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