4月3日「同じ高校の可能性だって、」

3話

『ごめんね〜。入学式いけなくなっちゃった〜』


 今朝、一条寺いちじょうじ 涼音すずね、私の母に用事ができたから入学式には行けないというむねのことを言われた。

 こんなことで機嫌が悪くなる私は心が狭いのだろうか。


 確かに、中学の時だって来なかったけど、でもそのときは直接会って申し訳無さそうに言われたはずだ。


 でも今回はどうだろう。申し訳ないなんて思ってなさそうな声で、電話で軽いことのように言われた。


 4月に入って一人暮らしを始めたばかりの広すぎる家に1人でいるのは嫌だなと思って、外に出ることを決める。


 こういうときは外で遊ぶに限ります。


 駅から近い家を選ばれたから徒歩でゆっくりと駅に向かう。駅についてからどこに行こうか少し迷ったけど、とりあえず近くのショッピングモールに行くことを決めて電車に乗る。


 学生は春休みとはいえ社会人は仕事をしている。時間帯的に電車の中は割とガラリとしていて、でもなぜか座席に座る気に離れなくて吊り革を掴んで立っていた。


 ショッピングモール近くの駅で降りて、外に出ると冬が終わったことを告げているかのような少し暖かい日差しに迎えられた。


「え、涼ちゃんじゃん」


 ショッピングモールに向けて歩きだしてすぐ。聞き慣れた声に振り向くと、そこにいたのは中学校のときに仲良くしていた同級生の近藤こんどう 沙也加さやかだった。


「1人で何してるの?」

「ショッピングでも楽しもうかなと」

「じゃあさ、一緒していい?」


 ほんの一瞬悩んだけど、拒む理由は見当たらなかった。


「いいですよ」


 笑顔を向けてそう返事をすると沙也加は「やった!」と小さめにガッツポーズをする。


「沙也加はなにか目的があってきたのですか?」

「春服が欲しくてさ〜」

「じゃあまず服を見に行きましょうか」

「いいの?」

「いいですよ。私はなんとなく来ただけですから」


 少し考えてから、どこの服屋に行くかを決めてゆっくりと歩き出す。


 ここのショッピングモールは引っ越し前にもよく来ていたから服が売っている場所はよく知っている。もっというならリニューアルとかしてなければどこに何があるかはすべて覚えていると思う。


「これかわいい〜!」


 服屋に到着してすぐ、沙也加がマネキンにかけられている春服に反応を示す。


「かわいいですね」

「涼ちゃんは欲しい服ないの?」

「そうですね……」


 少し考える。


 部屋着用のパーカーとかならほしいかもしれないなと思う。けれどそれはここで買えるものではないし、今すぐ欲しいかと言われればそうではない。


 とりあえず無難なものは。


「まだ少し肌寒いのでロングスカートとかほしいですね」

「いいね〜」


 しばらく店内を歩いていると、沙也加が「これとかどう?」とロングスカートを見せてきた。


 そのロングスカートは桜をイメージしているのか、春っぽく薄いピンクで触ってみるとさらさらしていて悪くなかった。


「いいですね」と返事をすると自慢げに「絶対似合うよ!」と返ってくる。


 その自信がどこから来るのかはわからないがその勢いがおもしろくて自然と笑みがこぼれる。


「そこまで似合うというのなら買わないわけにはいきませんね」

「じゃあ私も最初のやつ買おうかな〜」

「似合うと思いますよ」

「知ってる」


 そう言うと入口の方に走っていってマネキンの横にある服とズボンを持ってくる。その間に私は親に渡される多すぎるくらいのお小遣いを使って会計を済ませる。


 しばらく店の外で待っていると沙也加が会計を済ませて店を出てくる。


「おまたせ〜」

「そんなに待ってませんよ」

「次どこ行く?」

「お腹も空きましたしお昼食べましょうか」

「じゃあどっかのカフェ入ろう」

「ではオススメがあるのでそこに行きましょうか」


 沙也加は楽しそうな顔をしながら私の隣を歩く。


 私は身長が高いほうだけど沙也加の方が少しだけ高く、隣を歩くとなんだか負けたような気持ちになる。


 けれど今はそんなことが気にならないくらい楽しかった。

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