2話
「……じ……ょう……
そこで目が覚める。どうやら本を読んでいる間に寝てしまっていたらしい。
「な、なんですか?」
「なにじゃないでしょ」
「……ごめんなさい」
何だこの会話。別に私が寝ててもみみに不都合はないはずだ。
時計を見ると7時30分を指していて、帰りたいんだなということに気づく。帰りたいなら勝手に帰ればいいのに、変なところで律儀だと思う。
「もう帰るから」
そう言って彼女は立ち上がる。私も同時に立ち上がってドアを開け、道を先導する。玄関のドアを開けて外に出ると辺りは少し暗くなっていた。
「ねえ、一条寺」
声に反応して隣を見るとみみは真っ直ぐ前を見ていた。
「なんですか?」
「ケーキ、美味しかった。ありがと」
「また用意しておきます」と言うと真っ直ぐ前を見ていた目線を私に移して目を輝かせた。どうやらみみは甘いものが好きらしい。新しい発見だった。
「ここまでですね」
そうこうしているうちに駅の近くまで来ていた。私が足を止めるとみみは足を止めることなく、振り返ることもなく駅に向かって歩いていく。
さみしいとは思わない。
みみとはたまたま接点があってなんとなく興味を持ったからこんな関係になっているだけで、別に明日からもう会えませんと言われたって否定することなく数日で気にしなくなると思う。
「はぁ……」
暗くなってきた空に向かってため息を付く。
こういうところが自分の悪いところだなと思う。もっと人を大切にしないといけない、そんな事はわかっている。
私の親は人との繋がりを大切にしているから起業して成功したのだと思う。
ならば私もそれを見習わなくては。そう思わないこともないけれど、どうせ無理だとどこかで勝手に思っている。
せっかく素晴らしい才能と血筋を持って生まれたんだから、もっと人生を楽しむ努力をしよう。そう心に決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます