夢見る心地の木天蓼。

心臓

5月3日「さみしいとは思わない」

1話

「みみさん」


 時計を見て3時を回ったことを確認した私はベッドに寝転んでゲームをしている猫又ねこまた みみに声を掛ける。


「なに?」


 その声からは不機嫌が感じ取れて、ゲームの邪魔をしたことを不満に思っているんだろうなと思う。


「ケーキあるんですけど」


 そう言うと、すぐにこっちを見て「食べる」と返事をした。


「わかりました。持ってくるので待っててください」


 みみは首をこくんと縦にふる。


 階段を降りるとそこには1人で暮らすには広すぎるのだリビングがあって、キッチンには大きすぎる冷蔵庫があった。


 それを開けてすぐのところに用意しておいたケーキが置いてある。

 それを持って2階の自室に戻るとみみがまぶたを閉じて寝息を立てていた。


「みみさん?」


「ん……」と声にならない声で反応される。


 完全に寝ちゃってますね。


 苗字も猫で名前も猫っぽい彼女は少し前までは態度も猫っぽかった。

 警戒心丸出しでそれを隠す気もなくて、目も鋭く威嚇しているようだった。


 そんな彼女が今、私の前で安心しきった顔で寝ている。喜んでいいことなのかわからないが自然と顔がほころんでしまう。


 1時間くらいだろうか、寝顔をじっと見つめているとみみが目を覚ました。


「……なんで起こしてくれないの」


 少し鋭い目つきで私を見てきて、少し前のことなのに懐かしい気持ちになる。


「気持ちよさそうに寝てたので」

「起こしてよ」


 起こしてたら不機嫌になってましたよね、なんて言ったら彼女はもっと不機嫌になってしまうから言えない。


「まぁ、いいじゃないですか。ケーキ食べましょう」


 私がそう言うとみみは何も言わずにベッドから降りて私の向かい側に座る。

 隣には座らないところを見ると私はまだ信用されきってないんだろうなと思った。



「「ごちそうさまでした」」


 そう言って手を合わせたあと、みみはすぐにベッドに戻ってゲームを再開してしまう。


 さみしいとは思わない。なぜなら、これが私たちの適切な距離なのだから。


 私はみみを見ていた目を読みかけの本に落とした。

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