空の小さな王様

水無月ハル

空の小さな王様

 そらかぶくもうえには、ちいさな王様おうさまおさめる王国おうこくがありました。

王国おうこくひとたちのことを天人あまびとといいます。

天人あまびとたちはつばさち、そらまも役目やくめっています。

みんなのそらが、いつも綺麗きれいであるようにしているのです。

 さて、その王国おうこく王様おうさまですが、としわたしたちでいう七歳ななさいわりません。

肩書かたがきは王様おうさまでも、こころはまだまだ子供こども

ショートケーキが大好だいすきで、コーヒーはにがくてめません。

むずかしいほんあたまいたくなります。

 王様おうさまはある書庫しょこで、そらしたのことについてかれた資料しりょうつけました。

それをて、大臣だいじん一人ひとり地上ちじょうのことを調しらべていたのをおもしました。

なぜわすれていたかというと、それはそれは退屈たいくつ会議かいぎねむかったからです。

 王様おうさま資料しりょう両手りょうてかかえて大臣だいじんたずね、そのはなしかがやかせながらりました。

そらしたんでいるというヒトは、どんなふくて、どんないえに、どんなまちんでいるのか…。

はなしわるころには、王様おうさまはすっかりそらした夢中むちゅうになってしまいました。

 その様子ようすさっした大臣だいじん王様おうさまに、やさしくさとすようにいました。

 「天人あまびとそらしたながあいだいるとヒトになってしまうのです。

 ゆめゆめこうなどとかんがえてはいけません。」

しかし、いけないとわれるほど、王様おうさまそらしたへの興味きょうみはさらにおおきくふくらみました!

 王様おうさまは、いつもよりはやめにベットにはいってたふりをし、そらした計画けいかくてました。

そのばん計画通けいかくどおりに頃合ころあいを見計みはからい、つばさやしてまどからし、チカチカひか不思議ふしぎまちへとちました。

 そこは無数むすうたか建物たてものがあり、透明とうめいいたがたくさんってありました。

みちるとみぎからひだりひだりからみぎせわしなくはしなにかがえます。

それはそら王国おうこく馬車ばしゃよりももっとはやくて、たことのないかたちのものでした。

大臣だいじんう〝くるま〟というものなのでしょう。

いかけようとしてもはやくていつけません。

にぎやかなまちあるいて、ひかいたや、たくさんのおみせかおでふらついている大人おとなたち…はじめて様々さまざまなものにかがやかしていましたが、どうにも空気くうきわるいので王様おうさま脇道わきみちはいりました。

 そこはしずかな住宅街じゅうたくがいでした。

さきほどのおおきなみちちがって、しずかでこわいくらいです。

ヒトのいえ大臣だいじんいたとおりでした。

所々ところどころかりはいているものの、もうすぐ夜十時よるじゅうじ

ヒトはほんのすこししかいません。

 あるつづけると、公園こうえんつけました。

王様おうさまのぞくと、ブランコに一人ひとりおんながいました。

そのは〝制服せいふく〟をていました。

王様おうさまはまた大臣だいじん言葉ことばおもします。

制服せいふくているのは学生がくせいというヒトだと。

 王様おうさまはそのおんなちかづきます。

おんなくらかおうつむき、弱々よわよわしくブランコをいでいます。

王様おうさまはそっと、となりのブランコにすわりました。

王様おうさまづいたおんなかおげ、まるくしてこちらをています。

きっと王様おうさま格好かっこうがどこかのくに王子様おうじさまのようだったからでしょう。

 王様おうさまは、まずは自分じぶんから自己紹介じこしょうかいするよう大臣だいじんおしえられていましたので、おんなわせてこういました。

 「ぼくはそら王国おうこくおうさまです。あなたはだれですか?」

 おんな今度こんどうたがいのけました。

王様おうさまはその理由りゆうかりません。

すこししてからおんなちいさなこえ自己紹介じこしょうかいしてくれました。

 「………わたしはただの中学生ちゅうがくせい千恵ちえってうの。」

王様おうさまは、はじめてはなしたヒトの名前なまえいてうれしくなりました。

 千恵ちえちゃんは王様おうさま

 「そら王国おうこくってなに?あなたは子供こどもなのに王様おうさまなの?」と色々いろいろいてきました。

王様おうさま質問しつもん全部ぜんぶこたえると、今度こんどはこういました。

 「じゃあ、天人あまびとである証拠しょうこせて。」

王様おうさまは、どうして証拠しょうこせなければいけないのかわかりません。

ひとうたが天人あまびとはいないのです。

でも、われたとおりにつばさしてんでせました。

千恵ちえちゃんは、それはそれはおどろいたかおをして、ようやくしんじてくれました。

 「どうしてここにきたの?」

たずねられるままに王様おうさまは、ヒトにあこがれたこと、ヒトの世界せかいってみたいとおもったことをいきおいよくかたりました。

でも、千恵ちえちゃんはくらかおをしていているだけです。

 「どうして元気げんきがないの?」

王様おうさまたずかえすと、千恵ちえちゃんはぽつりぽつりとはなはじめました。

学校がっこうのこと、友達ともだちとのこと、おや喧嘩けんかしたこと。

だから、こんな時間じかん一人ひとり公園こうえんにいること…。

 「ヒトの世界せかいにいいことなんかないよ。」

 「そうかなぁ、ぼくはすてきだとおもうよ。てごらん。」

王様おうさまはほら、とべます。

千恵ちえちゃんはくびかしげながら、そっとかさねます。

 その瞬間しゅんかん千恵ちえちゃんのからだ突然とつぜんちゅうき、王様おうさましました!

おどろいた千恵ちえちゃんは王様おうさまからだ必死ひっしにしがみつきます。

地上ちじょうからはなれたあしとどまるところがなくくうります。

はジワリとあつくなりちいさくなみだがこぼれ、うで徐々じょじょつかれてちからけ、王様おうさまからするりとはなれてしまいました。

 (ちる!)

でも王様おうさまると、千恵ちえちゃんのからだはふわりときました。

 「ぼくたちがふれていると、ヒトはべるんだよ。」

王様おうさま千恵ちえちゃんとをしっかりつないでニコッとわらい、まだまだそらあがっていきます。

それはそれはたかいところまでて、王様おうさま千恵ちえちゃんにびかけました。

こわくてじていたおそおそけると、満天まんてん星空ほしぞら地上ちじょうあかりがばっとはいってきました。

そのは、藍色あいいろそらりばめた白貝しろがいのような無数むすうひかりをちかちかとうつみます。

千恵ちえちゃんは自然しぜんふか吐息といきをつきました。

さきほどのこわさなどどこかへき、すっかり感動かんどうしてしまったのです。

 ふと、千恵ちえちゃんはづきました。

ここはとっても空気くうき綺麗きれいで、はいがキンとえて、とても清々すがすがしいのです。

千恵ちえちゃんは、いままで自分じぶんなやんでいたことがとてもちっぽけにおもえて、なんだかおかしくなり、きながらわらしました。

 無事ぶじ地上ちじょうもどると、千恵ちえちゃんのには一切いっさいくもりがなく、星空ほしぞらうつしたようにきらきらしていました。

千恵ちえちゃんは王様おうさまり、とびきりの笑顔えがおいました。

 「ありがとう!」

 王様おうさまは、これほどきれいなものはたことがない、とおもいました。

 「ただんだだけでこんなステキなものがられるなんて、やっぱりそらしたはすごいや!」

 そのときです。

てん一角いっかく稲光いなびかりはしりました。

 「いけない、大臣だいじんだ!」

王様おうさま遊具ゆうぐかげかくれると同時どうじに、くものようなつばさえた白馬二頭引はくばにとうびきの馬車ばしゃが、千恵ちえちゃんのまえちました。

 「失礼しつれい、おじょうさん」

しろいひげの老人ろうじんこえけます。

 「このへんで、ちいさな王様おうさまませんでしたかの?」

千恵ちえちゃんはとっさにだまってくびよこりました。

 「そうですか」

老人ろうじん素直すなおにうなづき、だれかせるともなくいました。

 「王様おうさまうそをついてしろしたのじゃ。

うそのない世界せかいものが、ヒトとながせっして平気へいきうそをつくようになれば、ヒトになってしまう。」

 馬車ばしゃはたちまちがりっていきました。

物陰ものかげからあおかおてきてした王様おうさまを、千恵ちえちゃんはつよきしめました。

 「ぼく、うそをついたつもりなんてない…。千恵ちえちゃんはどうしてかばってくれたの?」

 「ヒトはやさしいうそもつくの。

でも、あなたとそらにはうそがなかった。

わたしはあそこが大好だいすき。」

千恵ちえちゃんのには、ヒトのやさしさのひかりあふれていました。

王様おうさまはそこに、そらしたかんじたあこがれそのものをたのです。

 「またかならるよ。今度こんど大臣だいじんにうそをつかずにね。」

 王様おうさま千恵ちえちゃんとそう約束やくそくして、ふわりとそらかえっていったのでした。

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空の小さな王様 水無月ハル @HaruMinaduki

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