第90話 消しました

 ウザ絡みしてくる聖女を放置してベリアルの死体に近づく。

 戦闘後のお楽しみ――ドロップアイテムのチェックだ。

 ラストアタックは俺じゃないから、楽しみ半減って感じだけどな……。


 悪魔は倒すと消える。

 異界から来たから、倒せば異界に戻るというわけだ。


 悪魔が消える時、アイテムをドロップする。

 大抵が強さに見合う魔石を落とすが、四天王の場合は一つ、重要なアイテムを残していく。


「見つけた」


 ベリアルが倒れた場所で、俺は二つのアイテムを発見する。

 一つは人の頭ほどある巨大な魔石。

 これだけで、何十億という金になる――が、俺の目当てはこれじゃない。


 もう一つの砡――逸脱の宝玉だ。

 見た目はゲームと同じだが、念のためアナライズでチェックだ。


○逸脱の宝玉

 禁忌を犯し力を得た者の末路。禁断の力が凝縮しているが、資格無き者が使えば滅びの未来が待っている。


 うん、間違いないな。


 これはレベルの上限を突破するためのアイテムだ。

 俺は勇者じゃないし、正直無くてもいいかなくらいに思ってた。

 でもこのルート、予想以上に強敵と戦う機会が多い。


 トモエとかベリアルとかな。

 今回は聖女の加護とバフがあったから余裕で倒せたが、今後はどうなるかわからないし、ゲームじゃないから失敗してもリトライ出来ない。


 であれば、死なないように強くなる必要がある。

 目標はラスボスをワンパンで倒せるレベル。

 戦ってもつまらないだろうが、死ぬよりマシだ。


 俺は自分が寿命で死ぬまでは、プロデニの世界を満喫するって決めてんだ。

 バッドエンドだけは絶対にごめんだ!


 宝玉を握りこむ。

 すると体の中に、宝玉から力が流れ込んでくるのを感じた。

 一瞬、体が拒絶するが、すぐに力を受け入れる。




○名前:エルヴィン・ファンケルベルク

○年齢:16歳  ○肩書き:国王

○レベル:99→101

○ステータス

 筋力:24078→24731 体力:26789→27497

 知力:24208→24998 精神力:55430→60883

○スキル

 ・大貴族の呪縛 ・剣術Ⅵ→Ⅶ ・身体操作Ⅶ ・魔力操作Ⅴ→Ⅵ

 ・強化魔法Ⅵ→Ⅶ ・闇魔法Ⅵ→Ⅶ ・威圧Ⅴ ・調合Ⅳ

○称号

 ・EXTRAの覇者

 ・超越者

○加護

 ・聖女の祝福



 いろいろ上がってるが……精神力の上がり方ァ!

 なんで一気に五千もアップしてんだよ……。

 俺の精神力、ダイヤモンドでも目指してるの?


 さておき、他のスキルも軒並み上がってる。

 それだけベリアルが強かったってことだ。

 まっ、モーション全部覚えてたら強敵もなにもないけどな。


 称号の超越者は、限界突破アイテムを使った時に自動取得される。

 特別な効果はなにもないから、ただのおまけだ……と思う。


 ステータスを一通り確認したところで、俺の前にハンナが姿を現した。


「エルヴィン様、敵首魁の討伐、お見事でした」

「うむ。そちらは?」

「ユルゲン、カラス、ジェイ他、全使用人の手により、首都内の悪魔殲滅を完了いたしました」

「……よくやった」


 いやいや。使用人全員来てるなんて、聞いてないよ!?

 それでファンケルベルクの街は大丈夫なの?

 いや、大丈夫だから来たんだろうけど、それにしても思い切ったなあ……。


「状況が終了しましたので、皆を元の持ち場に戻してよろしいでしょうか?」

「ああ、頼んだ」

「承知しました。次に私からの報告ですが、反対派はすべて消しました」

「…………」


 ンンッ!?




          ○




 めっちゃ気まずい。


 俺は今、王城の応接室でレナードを待ってる。

 座り心地のいいソファーだが、背中を付ける気にはちっともなれない。


 イングラムを守るとか言っておきながら、そこを管理してる貴族を消しちゃったとか、ギャグでもキツイわ……。


 反対派?

 いいじゃん、べつに、放っておけよ。

 全員YESマンになった方が国はヤバイんだぞ?


 まあ、消した後で言っても遅いんだけどな。

 謝ったら許してくれるかな……ハァ。


「遅くなって申し訳ない。人手が足りなくて仕事が立て込んでいるのだ」

「気にするな」


 俺のせいだからな……。

 レナードが、一度姿勢を正してから、深々と頭を下げた。


「今回は、本当に助かった。この国を守ってくれて、感謝する」

「……約束したからな」

「大悪魔が現われたのだぞ? まさか、本当に守ってもらえるとは思ってもみなかった」


 確かに、一般人なら普通は匙を投げる状況だ。

 この世界、強い人があまりいないからな。


「それと、貴族の件だが――」


 来たッ!

 ついに来てしまった。

 ちゃんと謝れるかな。

 大貴族の呪縛、邪魔をするなよ?


「本当に申し訳ない!」

「…………む?」

「反目する者がいることはわかっていた。だが、まさかすぐにコトを起こすとは思ってもみなかった。これは一重に、俺の能力不足が招いた結果だ。本当に済まなかった……」


 あれぇ?

 てっきり、貴族を大量に消しておいて、一体どう責任を取るつもりだ! とかなんとか、怒られるんだろうと思ってたんだけど……。


「反目した者の処分についても、すまなかった。処分について、気に病むことはない。対して実務能力が高くもないのに、取り入る能力だけはある者が大きな顔をして困っていたのだ」


 あー、それ、日本にもいたからすごいわかるわ。

 仕事が出来ないのに、仕事が出来る雰囲気作りが上手い奴。そういう奴が上に取り入って、どんどん昇進していく。

 結果、歴史ある大会社が傾いたって例を、俺はニュースでいくつも見たことがある。


 今回消しちゃった貴族がそういうタイプなら、多少罪悪感が薄れるな。

 でもやっぱり、すべて消えてなくならないけど……。


「そうだ、これを渡しておこう」

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