第68話 怖くて言えない本音

 ――それがこの真実の指輪だ。


 うんうん。やっぱ今思い出してもすげぇ良いイベントだわ。

 ニーナの説教シーンはアニメーションだったし、たぶん製作側もこのシーンがめっちゃ好きなんだろうな。


 後ろで流れるテーマソングも良かったし。

 初めて見たとき、マジで泣いたなあ。

 今だって、ちょっと目頭が熱いもん。


 そんなイベントのアイテムをゲットしたのは、勇者と同じく絶対に魔王に操られないためだ。

 もし操られたら、俺がこれまで育んできた信頼とか、家臣が作り上げた街とか、すべて台無しにされるかもしれないからな。


 もし俺が自分の手で、知り合いを傷つけるようなことになったら、たぶん勇者と違って立ち直れないかもしれない。

 立ち直らせてくれる奴もいないだろうからな……。


 ニーナ?

 俺、別に聖女ルート入ってないからな。入るつもりもないし。

 あいつだって、俺のために自分の体に消えない傷作りたくないだろうしさ。


「そういえば……」


 この部屋、プロデニで来た時にあった白骨死体がないな。

 なんのイベントも発生しない、ただのオブジェクトだったから忘れてたわ。


 周りを見回すが、やはりない。


「何を探しているんだ? この部屋にあるのは、それだけだぞ」


 レナードが不思議そうに首を捻る。


「まさか宝物庫だと思ったのか? それならば地上にある」

「……そうか」


 ああ、そうか。

 そうだったな。

 ここはまだ、滅ぶ前のイングラムだ。

 プロデニじゃあ白骨化してた奴が、まだ生きているんだ。


 そしてここは、『王しか知らないシェルター』だ。

 つまり、プロデニで見た白骨死体は……。


【シナリオ理解度が2%増えました――58%】


「ど、どうした?」


 俺の視線を受けて、レナードが後ずさる。

 いや、怯えるなよ。

 なにげに傷つくから……。


 ゲームの中でイングラムは、災害級の悪魔の襲撃を受けて滅んだ。

 おそらく、レナードはこの国が滅ぶとわかった瞬間に、このシェルターに一人飛び込んだ。


 俺が指輪を手にしても、あまり芳しい反応をしないところを見るに、この指輪を敵に渡さないために心中した、という線は薄そうだ。


 ならば何故一人だったのかとか、安全なはずのシェルターでどうして死んでしまったのかとか、いろいろ疑問は尽きない。

 だが疑問を解決する術はない。


 ただ、あの白骨死体がレナードだって想像すると、ちょっとだけ寂しい。


「王は、孤独なのだな」

「……ああ、そうかもな」


 俺のつぶやきに、レナードがため息混じりに同調した。


 俺は、大好きなプロデニの世界を全力で楽しもうと決めた。

 なのに、目の前には寂しい現実が横たわってる。


 寂しい現実これは、邪魔だな。

 だったらやることは一つ。

 処刑ルートを回避したように、俺が未来をねじ曲げるまでだ!


「レナードよ。よく聞け」

「は、はっ!」


 俺の声に、レナードがかしこまって膝をついた。

 そこまでする必要はなかったが、まあいいだろう。

 それらしい形になってるからな。


「エルヴィン・ファンケルベルクは本日より、イングラム王国を併呑する。たとえどのような危機が迫ろうと、俺はイングラムと、レナードを守ると約束する!」

「……えっ、お、俺も?」

「ああ。お前の命もろとも、俺が全力で守り抜く」


 勇者ルートじゃ、レナードは暗く狭い部屋の中で孤独に死に、白骨化した。

 だがエルヴィンルートは違う。レナードはまだ生きている。

 だったら、俺はこいつが白骨化する未来を絶対に阻止してやる。


 知ってるか?

 ファンケルベルクは、身内には甘い。

 不義理を働かない限りは、守ると決めたら守るもんだ。


「レナード、俺はできうる限りお前を守る。だが、一つだけ覚えておけ。俺とファンケルベルクには、決して不義理を働くな。不義理を働いた瞬間、あらゆるものが消滅きええると知れ」

「わ、わか、わかった……」


 よぉーし、これにて一件落着!

 ……じゃねぇ!!


 なんかさらっと流しちゃったけど、なんでイングラムを併呑することになってんだよ!?

 国なんていらねぇよマジで!


 ――なんて怖くて言えない。

 この状況……どうすりゃいいの?

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