第67話 ゲームイベント(思い出補正)
「いらぬ」
俺は無傷だったし、ここは一つお互いに痛み分けってことでどうかな?
「レナードよ。貴様は引き続き、王として務めよ」
うーん。
相手が白旗を揚げた瞬間から、大貴族の呪縛が絶好調だな。
言いたいことのニュアンスは合ってるんだが、絶妙に言葉が違うのがもどかしい。
まあ、いまは下手な言葉を口にするより、スキル効果に任せた方がいいだろう。
なんか変な地雷踏んで、また俺の命狙われても嫌だしな。
「……裏切るかもしれませんよ?」
「それもまた一興」
「くっくっく。最精鋭を失った者の謀反など恐ろしくありませんか。それに、たとえ戦力が十分であろうと、貴殿ならば鎮圧は容易でしょうな」
「さて、な」
「……ところで、一つだけわからないことがあります」
レナードが不満げな顔をして首をかしげた。
今度は何を聞くつもりだ。
俺にも答えられないこと聞くなよ?
トロッコ問題とかABC予想とか聞かれても答えられないからな。
「貴殿の『懸念』とはなんだったのですか?」
「……ああ」
なんだそれか。
俺でも答えられる簡単な質問で良かった。
「答える前に、城を自由に歩いて良いか?」
「……俺は降伏した身です。俺の命も、城も、好きにしてください。ただ……、どうか家臣と国民の命だけは勘弁してください」
「当然だ」
いやマジで、こいつの中で俺ってどういう人物像なの?
降伏した相手の命ぽんぽん奪ってくような奴って思われてるんだとしたら、ものっすごく心外なんだが……。
やらねぇよ、そんなこと。
「だ、そうだ。良かったな」
「陛下ぁ……」
そう言って、レナードはちらり宰相の顔を見た。
宰相が感極まったように目を潤ませる。
『陛下ぁ』じゃねぇって。
さっきレナードが首を差し出した時は止めなかった奴が、なに感極まってんだよ。
こいつだけ消しちゃだめかな?
小物臭すごいし、後々レジスタンスとか組織しそうだし。
でも、やっぱダメか。
殺さないって約束しちゃったからな……。
俺はプロデニの記憶を頼りに、隠し部屋へと向かう。
場所はそれとなくわかってるんだが、壁があるからまっすぐ目的地に向かえない。
なんかもう面倒だな。
壁、壊して進めないかな。
命は奪うなと言われたけど、壁は壊すなって言われてないしな!
ちらり後ろを見ると、幽霊みたいな顔のレナードが付いてきている。
ちなみに宰相は、後始末をしろと言われて謁見の間に残された。
エリート兵士が20人も消えたばっかりだからな。
家族へのお悔やみ文作成とか、二階級特進とか、いろいろやらなきゃいけないことが山盛りだ。
俺の視線に気づいたか、木の虚みたいな目がぎょろりとこちらに向いた。
ひっ!
こえぇ!
よし、壁は壊さず進もう。
後ろから刺されたくないしな……。
記憶に従って歩いて行くと、やがて装飾がひときわ施された扉の前にたどり着いた。
どうやら、ここに隠し部屋の入り口があるっぽいな。
レナードからあらかじめ許可を得てる。
俺は少しためらって扉を開く。
中は、執務室だった。
装飾の多さから、たぶんレナードの部屋だろう。
部屋を歩いて一周する。
すると、ほんの少しだけ、足音の違う床を発見した。
おっ、あったあった。
すかさずかがみ込み、決められた手順で蓋を開く。
「なっ!? きさ――貴殿は、何故王しか知らないシェルターを、何故開け方まで知っているのだ!? ――ですか!?」
あっ、この隠し部屋ってシェルターだったんだ。
てっきり宝物庫かと思ってたわ。
「くっ、内通者か! しかし一体誰がこの場を知っているんだ……。エルヴィン殿、答えてくれないか――くれませんか!? 一体どこから情報を得たんですか!」
ああ、もう、まどろっこしいな!
普通に話せよ!
「鬱陶しい。これまで通り話せ」
「し、しかし……」
「俺が許す」
「は、はい……。それで、一体どこから情報を得た、んだ?」
「貴様は知らなくて良いことだ」
「――ッ!」
だって答えられねぇもん。
昔イングラムが滅んだ後に来たことがあるとか、隠し部屋を探すイベントがあったとか、言ったところでレナードには意味不明だしな。
設置されているハシゴを下りて地下へ。
秘密の部屋は、人が五人入れる程度の広さしかない。
ゲームでは感じられなかった、カビと埃の臭いが充満している。
うーん。ここは昔と同じだなあ。
滅んだ後とほとんどなにも変わらない。
その部屋の片隅に、台座にはめ込まれた指輪があった。
これこそが、俺が求めていたアイテム、『真実の指輪』だ。
この指輪は、聖女ルートで回収する、重要アイテムだ。
魔王が復活し、侵攻が開始されたあと。
勇者の活躍を煩わしく思った魔王が、古の呪法によって勇者を傀儡にする。
魅了への完全耐性を備えた勇者でも、この呪法は弾けなかった。
魔王に操られた勇者は、これまでともに戦ってきた仲間たちを手にかけてしまう。
苛烈な攻撃に、パーティメンバーですら太刀打ち出来ず、あと一歩のところまで追い詰められてしまった。
そこで、ニーナが身を挺して勇者の攻撃を体で受け止める。
自らの血肉を捧げて神を降ろし、やっと勇者は呪法から逃れることが出来た。
だが、魅了と同様に操られていた時の記憶が残っている勇者は、己が取った行動に深く落胆した。
『魔王を倒すための力を、仲間にふるってしまった。俺はもう、戦えない……』
絶望する勇者を救ったのもまた、ニーナだった。
呪法を解呪するため血肉を捧げたせいで、乙女の体には『聖痕』が生じてしまった。
そのニーナが、毅然と言ったのだ。
『立ちなさい、アベル!』
世界は勇者に、失敗しないことを望んでいない。
絶望に打ちひしがれることも……。
『悲しんでもいい、後悔してもいい。失敗したっていいじゃない! むしろ、そうじゃなきゃ、誰もアンタについていかないわよ。
いい、よく聞いて。みんなが願ってるのは、非のない勇者じゃない』
世界が勇者に望むのは――
『――魔王を討つ、ただそれだけよ!』
そこから、なんとか心を立て直した勇者は、二度と同じ失敗を繰り返さないために、傀儡の呪法をはじく強力な魔道具の入手に旅立った。
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