第52話 封印されし古の王
鬼の王は、夢を見ていた。
かつて、カシオン帝国の皇帝エルヒムによって屈服させられ、迷宮の守護者として封印された頃の夢を。
エルヒムは、まさに化け物だった。
鬼人族で最強の肉体を持つ王ですら、かの者の体には拳一つ当たらなかった。
この者と戦っても、決して勝ち目なし。
そう思ったが故に、鬼の王はエルヒムに下った。
そしてエルヒムが王に命じた。
この地に眠る宝を求める者を、何人たりとも通してはならない。
『ただし、もし■■■■■■■■――』
強い耳鳴り。
まるで、その言葉を思い出すことが、禁止されているかのように夢はそこで終わり、また初めから再生される。
皇帝からの命令を守り数千年。
初めてこの場に人の気配を感じた王は、ゆっくりと瞼を開けた。
「久しいな」
瞼を開けることも、体を動かすことも、久しぶりだった。
だが、感覚や肉体は微塵も鈍っていない。
そういう魔法がかけられたからだ。
故に王は、老いず朽ちず衰えず、全盛期の能力を保持したまま、侵入者を待ち構える。
現われたのは、小さき人だった。
ただの人。ヒュームだ。
その体躯を見た時、王は大いに落胆した。
体から感じる覇気が、あまりに弱々しかったからだ。
久しぶりの戦いだというのに、なに一つたぎらない。
気は進まないが、エルヒムの命令だ。
人間は排除する。
一瞬で蹴散らしてやろう。
そう思った王が、拳を振るった。
山ですら打ち砕くほどの攻撃は、しかしあっさりヒュームに避けられた。
(何ッ!?)
確実に当たったと思った。
実際、眼前に迫る拳を見ても、ヒュームは身動き一つとらなかった。
だが拳がぶつかる寸前で、ヒュームがひらりとその身を躱したのだ。
まるで風に舞う木の葉だ。
……なるほど、少しは楽めそうだ。
王は笑い、ヒュームに攻撃を仕掛ける。
しかし、一度ならず二度、三度と、王の拳が避けられる。
(何故、だッ!? 何故当たらない!!)
どれほど苛烈な攻撃を繰り出しても、まるで流水のように躱されてしまう。
攻撃が空振ると同時に、こちらの体に僅かな傷が付く。
ヒュームから、絶妙な反撃を受けたのだ。
傷は浅い。
王は気にせず攻撃を繰り出していく。
だが攻撃が百を数えた頃、鬼の王の心には畏怖が芽生えていた。
かつてエルヒムに感じたものと、全く同じの感情だ。
こちらの攻撃は一切当たらず、なのに相手の攻撃が体に刻まれていく。
初めは取るに足らないと思っていた浅い傷だが、百も超えれば脅威になる。
鬼の王の体は、ずたずたに切裂かれているのに、反対にヒュームは未だかすり傷一つなし。
「ば、化け物めッ!」
「いや、化け物はお前だろ」
王に対してあまりに不敬な言葉遣いだ。
しかし、それを糺す力が王にはない。
「……貴様。名前は」
「エルヴィン」
「える……う゛ぃん……?」
名前のなにかが、ひっかかった。
鼓膜の奥で、キーンと鋭い音が響く。
かつての皇帝の、封印されていた記憶が、ゆっくりと解き放たれていく。
『ただし、もしエルヒムの名を持つ者が現われたら――』
エルヴィン……Elvhim……。
『――疾く
ελβηιμ……エルヒム!
パンッ!
水の塊が地面に叩きつけられたような音が響いた。
何が起ったのか。
それを見ることも、認識することも出来ないまま、鬼の王の意識は闇の中へと消えていったのだった。
○
【シナリオ理解度が1%増えました――56%】
うわあ、めっちゃびびった。
だってダンジョンのボスっぽいのと戦ってたら、いきなり頭が破裂するんだもん。
ボスはかなり大きな鬼人族だった。
これまで戦ってきた鬼人とは、強さの格が明らかに違ったな。
だって、初動を見ても動き出すのが少し遅れるくらいだったもん。
マジで死ぬかと思ったわ。
でも、目が慣れてからは楽だった。
攻撃を躱してカウンターを入れて、いつものパターンに入ったんだけど……なんか知らんが突然頭が弾けた。
あれ、マジでなんだったの?
もしかしてバグ?
意味不明すぎてかなり怖い。
それにちょっと――いや、結構腹が立つ。
今回の戦いは俺が勝利した。それは間違いない。
でも強い敵は、自分の手で倒してなんぼだ。
まるで録画ミスで大事なシーンが飛んだドラマを見た気分だ。
めっちゃイライラする。
この気持ち、どうしたらいいんだ。
……どうしようもないか。
ボス、死んじゃったからな。
しゃーない。気持ちを切り替えるか。
ところでこれ、近づいても大丈夫?
ってか、グロいからあんま近づきたくはないんだけどな。
近づかなきゃ、奥に進めないんだよ……。
おっかなびっくり、死体の横を通過する。
幸い、死体がいきなり起き上がることもなく、部屋を通過出来た。
○名前:エルヴィン・ファンケルベルク
○年齢:16歳 ○肩書き:国王
○レベル:76→99
○ステータス
筋力:15550→21889 体力:17176→24354
知力:15550→22008 精神力:36176→50391
○スキル
・大貴族の呪縛 ・剣術Ⅵ ・身体操作Ⅵ→Ⅶ ・魔力操作Ⅴ
・強化魔法Ⅵ ・闇魔法Ⅵ ・威圧Ⅴ ・調合Ⅳ
○称号
・EXTRAの覇者
「いや、何があったんだよ!?」
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