第51話 新たなマップ発見

 ユルゲンに案内されたのは、城の地下だった。

 地下といっても深い場所じゃなくて、基礎になってる部分――元々遺跡だった場所だ。


 地面から考えると半地下とか、そんな感じだろうか。


「一体、俺に見て貰いたいものとはなんだ?」

「それはこの先に。直接見て貰ったほうが、説明が早いと思いやしてね」


 場所的には、プロデニの中で一番大きな遺構があったところに近いな。

 まさか、遺跡を潰してこんな街を作ったから、変な呪いでも湧いて出たんじゃないだろうな?


 まっすぐ進むと、通路が一気に開けた。

 ここは、たぶん謁見の間の真下だな。


 地面は遺跡のものだろう石畳が敷かれている。

 その中心に、ぽっかりと穴が空いている。


「あれは……」

「ダンジョンですぜ」

「――ッ!」


 ついに隠しダンジョンキター!!

 ひゃっほう!


 そうだよな。なんかあるとは思ってたんだよ!

 だってどこからどう見ても『なにかあるよ』って見た目だったしな。


 でも、どのルートを辿っても遺跡でダンジョン発生とか、秘密の通路発見とかそういうイベントが起らなかった。

 どこかに秘密の入り口がないかと思って、拠点の壁という壁の当たり判定を確認するっていうデバッガーみたいな真似もした。

 でも、結局なにもなくてガッカリしたんだが、やっぱりあったんだなあ。


 エルヴィンルートでしか出現しない、秘密のダンジョン……。

 うおお、めっちゃやる気出て来たッ!


「ユルゲン」

「はっ!」

「しばしダンジョンに潜る」

「さ、さすがに危険ですぜ大将」

「心配はいらん。一刻ほどで戻る」

「た、大将ッ!」


 引き留めようとするユルゲンを振り払い、いざダンジョンへ。

 待ってろプロデニ未公開ダンジョンッ!

 俺がクリア第一号になってやる!




          ○




 ――なんて思ってた時期もあったな。


 いや、マジでこのダンジョンやばいな。

 何がヤバイって、敵が強すぎる。

 本当に久しぶりに雑魚敵相手に本気モードで戦ったわ。


 敵1匹倒すのに30分もかかったし。

 雑魚1匹でレベル51から52に上がったし。

 アナライズをかけてもレベル差がありすぎて、魔物のステータスどころか名前すらわからなかったし……。


 どんだけ凶悪な設定してんだよ。


 雑魚でこれなら、ボスが出て来たらたぶん勝てないな。

 相手の攻撃を食らわない自信はあるが、こちらの体力がある状態で、相手のHPを削りきる自信がまったくない。


 ここは、エルヴィンルートのエンドコンテンツなのかもしれないな。


 しかし、敵ががっちり強いおかげで、本気モードの勘をちょっとだけ取り戻せた。

 一撃食らったら即死って縛りプレイしてたのは、もう七年前のことだもんな。


 うん。しばらくはここで鍛えるか。

 勇者ルートは網羅してるが、エルヴィンルートはなにもわからない。

 今後なにが起ってもいいように備えだけは万全にしておくべきだろう。


 まだダンジョンに入って少ししか進んでないが、雑魚との戦闘に時間がかかりすぎた。

 そろそろ戻らないとユルゲンが真っ青になって突入してきそうだ。


 ダンジョンから上がると、ユルゲンが泣きそうな顔をして、


「大将~~!」


 と、その場に崩れ落ちた。


 うん。マジで申し訳ないことをした。

 反省はするが、自重はしない。

 許してくれ、ユルゲン……。




 ここにあるダンジョンについては、使用人含めて誰一人踏み入らないように命令する。

 もし万が一入ったら、たぶん死ぬだろうからな。


 相手のモーションを見た瞬間、行動出来れば死なないけど。

 そんな戦い方が出来るのは、プロデニマスターの俺しかいない。


 精神力ブッパの裏ルートをクリアするために、すべての魔物のモーションを頭にたたき込んだからな!


 ……あの頃の俺はどうかしてた。


 でもそのおかげで、隠しダンジョンで戦える。

 ありがとう、過去の俺!


 ダンジョンは地上にある遺跡と似たデザインの、石作りの空間が広がっている。

 壁には蔦が這っていて、湿気が高いせいかほんのりとカビ臭い。


 通路は複雑に入り組んでいて、時々広間が現われる。

 雑魚敵は、徘徊型と待ち伏せ型がいる。

 前者は通路に、後者は広間に現われる。

 どちらもアクティブで、気づかれた瞬間から戦闘に突入する。


 魔物の種類は、鬼人系だ。

 体の色が青かったり赤かったり、サイズが大きかったり小さかったりする以外に、手にしている武器が、剣や槍などバリエーションが豊富だ。


 鬼人系の魔物と戦った経験は豊富だが、ここまでバリエーション豊富な鬼人に、一度に出会った試しはない。


 初めの頃は慎重に相手の行動パターンを見定めるため、討伐にかなりの時間がかかった。

 色とか体のサイズとか、武器によって行動パターンが違うから厄介だし、ミスったら即死亡だからな。


 けれどモーションの癖がゲームとほぼ変わらないことがわかってから、一気に討伐速度が上がった。


 といっても、ダンジョンの攻略は急がない。

 ここは俺が独占していて誰にも奪われる心配はないし、そもそもダンジョン攻略以外にもやることがたくさんある。


 化粧品の製造指南とか、街の予算書の作成とか、法整備とか。

 中でも最も大事なのは、トレーニングだ。


 プロデニでは、高等部を卒業する18才後半まで基礎値が伸びる。

 それ以降は一切伸びない仕様だ。


 基礎をおろそかにすれば、レベルを上げてもステータスの伸びが悪くなる。

 なので基礎トレーニングの時間を十分取り、残った自由時間をダンジョン攻略に当てた。


 結果、一ヶ月経っても未だに一階層をうろついている。

 攻略速度が遅すぎてやきもきするが、雑魚敵の経験値が莫大だからなあ。

 なんかもう、1階層しかないんじゃね? ってくらい敵が強いし、こっちのレベルは上がりに上がってる。



○名前:エルヴィン・ファンケルベルク

○年齢:16歳  ○肩書き:国王

○レベル:51→65

○ステータス

 筋力:9670→13299 体力:10761→14690

 知力:9670→13299 精神力:23766→30940


○スキル

 ・大貴族の呪縛 ・剣術Ⅴ→Ⅵ ・身体操作Ⅴ→Ⅵ ・魔力操作Ⅴ

 ・強化魔法Ⅴ→Ⅵ ・闇魔法Ⅴ→Ⅵ ・威圧Ⅳ→Ⅴ ・調合Ⅳ

○称号

 ・EXTRAの覇者



 精神力がいよいよ3万を越えた……。

 俺の対魔法性能を超えられる奴、この世界にいるのか?

 たとえ居たとしても、そんな化け物にはお目にかかりたくないな……。


 たった1ヶ月で(それも隙間時間しかレベリングしてないのに)レベルが14も上がるって、相当魔物の設定がぶっ飛んでんな。

 だって、本編ならまだ学生時代で、ステータスが100越えたかどうかくらいだぞ?


 それなのに、俺は既にハードモードのラスボスを一方的にボコれるレベルにまで上がっている。


 ここまであっさり強くなると、後が怖いな。

 はやく強くならないと詰む何かが待ってる可能性があるとかね……。


 やだよ、そんな奴。

 出会いたくねぇよ。


 この街に引きこもってたら、出会わなくて済むかな?

 プロデニだと、行動を起こさないとなにもイベントは発生しないし……うん、もう絶対外に出ないようにしよう!


 そんな俺の決意は、半年もしないうちに自分の手で打ち砕かれるのだった。

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