第53話 宝物をもって帰還

 いきなりレベル上がりすぎだろ!


 半年かけてダンジョンを探索。

 レベルが76にまで上がって、ボスを倒したらいきなりレベル23アップするとか、設定ぶっ壊れすぎだろ。

 メタルキング倒してもこうはならんぞ。


 マジであの鬼、なんだったんだよ。

 そもそもレベル23アップするくらい強かったか?


 なんか言葉喋れたみたいだったし、もう少し会話しときゃよかったな。

 もしかしたらプロデニの裏設定がわかったかもしれないしな。


 それにしても、こんなに早くレベルがカンストするとは思わなかったわ。

 この先レベルを上げるには突破アイテムが必要なんだが……悪役貴族おれが入手出来るもんなのか……?


 ――まっ、面倒なことは後で考えよう。

 それより今はボスを倒した後のお楽しみタイムだ!


 部屋の奥にある扉を開くと、六畳ほどの部屋があった。

 大きな棚が並んでいて、そこに武器や防具、魔道具や収納されている。


「これは……」


 宝物庫では!?

 ひゃっほう!


 ざっと見るが、どれも記憶にないアイテムだ。

 試しにアナライズをかけてみるが、やはりというべきか、なにも表示されない。


 俺のアナライズさん、最近仕事しないんだが。

 くそぅ。魔力だけがっぽりもっていきやがって……。


 この辺りの性能試験は、おいおいやっていくか。


「……しまった」


 これだけのアイテム、どうやって持って帰ったらいいんだ!

 プロデニ時代はインベントリというか、無限収納システムがあったんだが、この世界にはないしな。


 同じプロデニの世界のくせに……。

 まさか勇者専用システムだったとか?

 ありえるな。


 まあここには誰も来ないし、悪役貴族は地道に運び出しますか。


 ひとまず軽くて小さいものから順番に鞄に詰め込んでいく。

 その中に一つだけ、見覚えのあるアイテムがあった。


「おっ、タリスレットじゃん懐かしい」


 青く透明な宝石が付いたタリスレットは、最終盤で手に入る腕輪型魔道具の一つだ。

 特別レアではない。というのも、その使い道が限定的だからだ。


 効果は、ダメージ10未満の物理・魔法攻撃を無効化する。

 一見すると無意味なんだが、ラスボス前の長距離移動で、雑魚敵の攻撃が鬱陶しい場合に役に立つ。


 プロデニ最終盤になると、HP回復方法がかなり限られる。

 というのもHPポーションが市場から消えるからだ。

 人類滅亡まっしぐらな状況だから無理もない。


 雑魚は基本無視して進めるが、それでも視界外からの遠距離攻撃は食らってしまう。

 塵も積もれば怪我になる。

『状態:怪我』になると移動速度が低下するし、戦闘能力も制限がかかるようになる。

 だからといってすぐに回復魔法を使っていては、ボス戦でMPが足りなくなる。


 そんな状況で出てくるのが、このタリスレットだ。


 ラスボスを倒せるレベルの勇者が、長距離移動する際に邪魔になる雑魚敵からの攻撃をゼロにする。


 本来は移動用アクセだが、レベル99になったし装備しておく。

 うっかりミスって背中から刺される心配がなくなるからな。


 さらに、アナライズで辛うじて鑑定出来るアイテムをバックパックに入れる。

 鑑定不能なものは、たぶん強いんだろうけど、呪われてても嫌だからな……。


「さて、戻るか」


 足取りが軽い。

 スキップしたくなるくらいだ。


 プロデニでも、初めて難関ダンジョンを攻略した帰り道は、最高の気分だった。

 レベルとかアイテムとかお金とか、いろんなものが挑戦前にくらべて何ランクも上がって、これまでの敵をどれくらい楽々倒せるようになったのかとか、次のイベントでどれくらい通用するのかとか……。

 一気に世界が開けた感じがして、楽しかったな。


 この感覚、懐かしいな。

 プロデニやってたのはもう七年前だもんなあ。

 そりゃ、懐かしくもなるわな。


 最近じゃ年月が経ちすぎて、プロデニプレイ当時の記憶を思い出すだけでも一苦労だわ。

 まあ俺クラスになると、印象的なイベントは忘れないけどな!


「戻りましたか、大将」

「ああ。出迎えご苦労」


 ダンジョンを出ると、疲弊した表情を浮かべるユルゲンがいた。


「毎度俺を待っているが、ユルゲンも暇ではないだろう?」

「そうなンですがね。大将が潜ったまま帰ってこないと思うと」

「心配するなと言っているはずだが」

「心配しやすって。大将の実力はわかっているつもりですが、もし操作系魔法が得意な魔物がいたらと思うと、落ち着かねぇンですよ」

「ユルゲンもわかっているだろう。魅了対策は十分だ」


 俺は魅了に完全耐性のあるアクセを装備している。

 いまさらそんな魔物が出て来たところで、怖くは――、


「ん?」


 なにか、大事なことを忘れているような?

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