第47話 危険な黒幕登場

「い、いや……今のままで頼む」


 国家樹立は確定なの?


 い、一応確認だけはしておくか。

 恐る恐るステータスボードを出現させると、


○名前:エルヴィン・ファンケルベルク

○年齢:16歳  ○肩書き:国王 NEW


 ンアァァァァ!!

 肩書きが国王になってるぅ!!


 やばい。

 この街が連合軍に滅ぼされる未来が見える……。


 マジでこれどうしよう?

 考えていると、後ろから覚えのある声が聞こえた。


「まさか、こんなものを作っているとは思ってもみませんでしたわ」

「……ラウラか。よくここがわかったな」

「ここを建築するための資材は、すべて我が家を通っているんですから、わからないはずありませんわ」


 えっ、そうだった?

 みたいな目で見ると、ハンナが満足げに頷いた。


「エルヴィン様が指示された通りに」


 うん、全然指示してないからな?


 でも、なるほど。

 化粧水と同じように、ヴァルトナーが隠蔽して資材を卸してたおかげで、ここが早々に露見せず、俺の目論見が潰されなかったってわけか。


 全然知らなかったけど、良い判断だ。


「よくやった、ハンナ」

「あ……有り難き幸せッ!」

「ところでラウラ。その大きな荷物はなんだ?」

「お土産ですわ」


 猪でも入ってそうな麻袋をどさっとその場に落とす。

 すると、


「ンギャッ!」


 中からうっかり踏み潰されたネズミみたいな声が聞こえた。

 ん、どこかで聞いたことあるような……?


 その答えは、ラウラが麻袋の口を開くと飛び出した。


「ちょっと、さすがにアタシの扱いが酷いんじゃない!?」


 ……そういえば、いたなあ。

 完全に忘れてたわ。


「危険な黒幕狂気の聖女」

 「奇跡を振りまく郷里の聖女! アンタわかってて言ったでしょ!?」

「なんでラウラが聖女を持ってきたんだ?」


 そもそも、よく人を一人抱えて平然としてたな。

 腕めっちゃ細いけど、ラウラって意外と力あるんだな。


「エルヴィンがどうしてもと言うから、拾ってきましたのよ」

 「ちょっと、人をモノみたいに言わないでよ! これだから貴族ってやつは……」


「……そんなこと言ったか?」

「あら、わたくしの勘違いでしたわね。森に捨ててきますわ」

「ナメた口きいてすんませんでしたァッ!!」


 聖女がその場で五体投地。

 体がまだ麻袋から出てないから、盛大に額を打ち付けた。

 なんか、転がってると根巻きされた苗みたいだ。


 麻布から這いずって出た聖女が、辺りを見回しいぶかしげな表情を浮かべる。


「ところで、ここはどこよ?」

「エルヴィン様の領地でございます」


 こらハンナ、領地って呼ぶな。

 これが外に漏れたらまじで死亡フラグが立つからやめてくれ。


「ふぅん。あれ、でもファンケルベルクって領地持ち貴族だっけ?」

「本日より貴族ではなく、国お――」


 ストーップ!!


「そこまでだハンナ」

「はっ」

「時間が惜しい。案内せよ」

「はっ!」


 怪訝な顔をするニーナ。

 ごめんな。出来れば俺のメンタルが落ち着くまで、この案件には触れたくないんだ。

 いつ落ち着くのか知らんけど……。


 ハンナの説明を聞きながら、ファンケルベルクの街を歩く。

 遺跡全体の広さは、大体ネズミーランドくらいありそうだ。

 ゲームの中だといろいろ省略されてたが、実際に目で見ると規模の大きさがよくわかる。


 そもそもこの遺跡って、なんだったんだろうな?

 ゲームの中じゃほとんど過去の歴史に触れなかったから、さっぱりだ。

 そのあたりも、後々調べたいな。


 初めはこの街を見て、ちょっとガッカリした。

 プロデニとまったく違ったからな。

 あの退廃的なテント生活を一度は生で見てみたかった。


 けど、今はワクワクしてる。

 大好きなゲームの中に自分の街があるっていうのは、好きな芸能人やアイドルに名前を覚えてもらうことに近い。


 それに、まだ見たことがない街がこの世界にあったとなると、探索せずにはいられないのがプロデニオタクってもんだ。


 退廃的なテント生活?

 知りませんねぇ。

 実際に暮らすなら、やっぱ現代的な石作りの街だよな!


 ――ところで、


「ニーナ」

「なによ?」

「なんで付いて来ている?」

「なんでって……」

「帰らないのか?」

「帰れないのよ!!」


 聖女が肩を怒らせる。

 反面、表情はもの悲しげだ。


「アンタ、わかってて言ってるでしょ?」

「……」


 ほんとごめん。

 全然わからん。


「今のアタシの立場は、勇者のお目付役っていう任務を失敗した聖女ごみくず。そんなアタシが、どんな顔して聖皇国に帰るってのよ。良くて聖女引退、最悪処刑よ」

「そうか」


 聖女が戻れない原因の一つは俺だな、うん!

 ……ほんとすまん。


 勇者、思いっきりぶっとばしちゃったからなあ。

 まさかそれでニーナが帰れなくなるとは思わなかった。


 この街は、処刑から逃れるために作った場所だ。

 もし帰国すれば処刑されるってなら、ニーナも同じ処刑仲間だ。気兼ねなくこの街を使ってもらいたい。


「ニーナ。ここに居ていいからな」

「……うん。ありがと」


 大通りを進むと、一気に道が開けた。

 遺跡中心部の広場だ。

 プロデニだと、ここに商人たちがテントを張って露天を開いてたなあ。


 ゲームをプレイしてたのは、もう7年も前になるのか。

 この広場は、魔王軍に追われて滅亡しかかった人間の、ほんの僅かな希望として凄く印象に残ってる。

 ああ、懐かし――。


「安いよ安いよー!」

「今日はダイコンが半額よ!」

「コムギはいらんかねー?」


 ――うん、俺の記憶と全然違う!

 マジでどこだよここ!!

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