悪役領主はひれ伏さない

第46話 敵が増えちゃう

「エルヴィン様、到着いたしました」

「……うむ」


 うわ、ドキドキする!


 この七年間で投資した額――計150億クロン。

 めちゃくちゃお金がかかった分だけ、思い入れもひとしおだ。


 やっと、俺たちの――ファンケルベルクの秘密基地に到着だ!


「……うんっ?」


 馬車をおりて目にしたのは、アドレア王国もびっくりな巨大な壁だった。

 高さは三十メートルほどだろうか。

 壁の天辺には、等間隔にバリスタが並べられている。

 凄まじい威圧感。


 えっとぉ……。

 ここはどこ?


「さっ、エルヴィン様。中へどうぞ」

「う、うむ」


 ハンナに促されて足を進めるけど、気が気じゃない。

 なんか知らない場所に連れてこられたんだが、まさか謀られた?

 実は監獄でした! ってオチじゃないよな……?


 巨大な壁と同じく、門も巨大だ。

 観音開きタイプじゃなくて、上下するタイプの扉だ。


 それにしてもこの壁、めっちゃ分厚いな。

 十メートルくらいないか?


 壁を抜けると、大通りがまっすぐ伸びていた。

 あたりはすべて石造りで、二階建ての家がずらっと並んでいる。

 所々に、店の看板が掲げられている。


 そのすべてがここ数年で建てられたものだろう、新しさを感じる。


 大通りの向こう側には、ひときわ巨大な建物。

 ――総黒石作りの、城があった。


 マジでどこだよここ!?

 ってかあの城はなんだよ!

 魔王城かなにかなの!?


「ここは……」

「エルヴィン様のご指示通り、〝遺跡を基礎にして〟作り上げた街でございます」

「う、うむ」


 遺跡に拠点を作れとは言ったが、基礎にしろとは言ってねぇよ!


 ……あっ。

 もしかして、『遺跡をもとに』って言葉が一人歩きしたのか?


 なんか妙に金かかると思ったら、こういうことか。


 それにしたって、ちょっと、やり過ぎじゃね?

 そりゃ150億かかりますわ……。

 ってかこんだけのものを作っておいて、それだけの出費で済んだのは安いくらいだ。


「人手はどうした?」

「はっ。エルヴィン様が道筋を付けてくださいました通りに」

「………………うむ」


 えっ、俺なんかやった?

 さっぱりわからないんだが……。


 街にはそこそこ人がいるらしいことがわかる。

 ということは、人をここに呼んで、建築に携わらせたのかもしれないな。


 ……まさか、奴隷とか、人さらいじゃないよな?


「不義理なことはしてないだろうな?」

「も、もちろんです! 皆様にはしっかりお話をして、この街に移っていただきました。給金も、王都の平均より少し多めに支払いました」

「そうか」


 うん、だったらいいよ。

 でもファンケルベルクの使用人が「オハナシ」とか言うと、妙に血なまぐさくなる気がするのは俺だけだろうか。


 まあ、予算書には人件費の項目があったし、しっかり給料を支払っていたのは間違いない。


「それで、エルヴィン様。この街の名前ですが――」

「うむ」


 さすがに秘密基地とか遺跡ってままじゃな。

 ここはやはり、シナリオライターに敬意を払って、原作通り『希望』という意味のエルピスを――。


「僭越ながら、ファンケルベルクと名付けさせていただきました!」

「ンンッ!?」


 えっ、もう名付けちゃったの?

 俺の家名を?


 なんて恥ずかしい真似を――じゃない、これだけの規模の街に家名を付けるってことは、周囲には領地や国家として樹立したと見なされないか?


 しかもこの遺跡がある場所って、周辺四国の丁度中央にある緩衝地帯の森の中だ。


 ここは資源は多いが魔物も多いし、無理に領地に組み込まないで、お互いにグレーゾーンとして有効活用しましょうやって土地である。

 そのため、遺跡があるのに人の手が入らず、ずっと放置されていた。


 そんなところに、ファンケルベルクなる街が突如誕生。

 ――これを周辺国が許すはずがない。


 もしファンケルベルクなんて名を名乗れば、

 アドレア王国=敵 NEW

 聖皇国セラフィス=敵

 魔王=人類はすべて敵

 周辺国=敵 NEW


 ――敵が増えてちゃうッ!!


 ってことで、却下だ却下。

 ここは穏便に『エルピス』を名乗らせよう。


 しかし、ファンケルベルク推しが過ぎるハンナだ。

 あまり強く拒絶するのではなく、そっと提案する形にしなきゃな。

 じゃないと後ろから刺されかねん。


 ってわけで、貴方の敵じゃありません、みたいな……ん、なにか忘れてる気がするが、まっ、いっか。


「ハンナよ。あまり早まるものではない。ファンケルベルクという名を名乗れば、国家樹立と見なされ、敵国に攻め入る理由を与えてしまうではないか」

「存じております」

「では――」

「そのための備えは、既に万全でございます」


 あっ、あったなぁ、備え。

 バリスタあれってそのためだったのかよ……。

 ってか、端から戦争る気満々じゃねぇか!


「……やはりエルヴィン様は、初めから国家樹立を考えていらっしゃったのですね」

「――ン?」

「そのようになんて、よほど楽しみにされていたのですね」


 ――ンホァァァァッ!!

 お前のせいか大貴族の呪縛ッ!!


「この計画書を頂いた時から、エルヴィン様のお考えはすぐにわかりました。相手に口実を与え、実際に侵略行為が発生したところを、正当防衛と称して叩き潰し併呑、領土拡大……。まさにファンケルベルクに相応しい見事な作戦です」


 全然わかってないよ。

 俺の考え、全然わかってないからねッ!!


 悪辣な作戦を口にして(しかも勝手な妄想)うっとりするハンナが少し怖い。


「これからはエルヴィン様ではなく、陛下とお呼びした方がよろしいでしょうか?」


 ほんとやめて。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 2章スタートです。

 どうぞ宜しくお願いいたします!

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