第27話 けっとうだ!!

「……とりあえず、注文したらどうだ?」

「そそ、そうだ、ね」


 料理を注文すると、また無言の時間が重くのしかかる。

 くそっ、せっかく羽を伸ばしてたところだったのに……。

 なんかすげぇ気疲れする。


 さすがにこの沈黙は辛すぎる。

 仕方ない。

 頑張って学友と歓談するか。


「「あの――」」


 かぶった。

 畜生、なんだよこのテンプレ状況は!


 ってか本当にこういうことがあるんだな。

 日本でも、異性と話すタイミングが重なったことなんてねぇよ。


 まあ、話せる異性なんていなかったんだけどなッ!

 ちくしょう!


「先にいいぞ」

「う、うん。7年前に、助けてくれて、ありがとうって……ずっと、言いたかったの」

「お、おう。そうか」

「うん。本当に、ありがとう」


 ……なにか、裏があるのか?

 素直に感謝して、俺からなにかを引き出すつもりか!?


 くっ。

 7年前から処刑台と、そこに送り出す奴らにビビリまくってきたせいで、聖女の言葉を素直に受けとれねぇ。


「次は、エルヴィンの番」

「む、ああ、そうだな。一つ聞きたいんだが、アベルは本当に予言の勇者なのか?」


 今日初めて勇者に出会ったが、プロデニをプレイしてた俺の印象とあまりに違い過ぎる。

 いくらエルヴィン視点だからといっても、これはキャラクター崩壊といっても過言じゃない。


 もし世に出していたら、多くのプレイヤーが激怒しただろう。

 勇者だって少し前まで操作キャラだったんだ。それを、あそこまで殴りたいキャラにされるのはあんまりだ。


 どうか人違いであってほしいんだが……。


「あ、ははは。そうだヨー」


 残念ながら、聖女が頷いてしまった。

 やっぱり、あれが本物かあ。

 この世界の勇者アベル、お前にはがっかりだよ。


「あれでも正式に教会の勇者なんだ。勇者って予言された以上、聖女としてはサポートしなくちゃいけない」

「……大変だな」


 心底思う。

 あれをサポートとか、俺には無理だ。

 気づいたら後ろから絞めてそうだもん。


「ところで今日、アイツ――じゃなかった、勇者に連れ回され――食事をする予定だったんだけど」

「お前、相当キてるんだな」


 勇者への気持ちヘイトが飛び出してるぞ。

 その殺気、しまえしまえ!


「レストランが軒並み満席だったのよ」

「へぇ、面白いこともあるものだな」

「これ、アンタの差し金なの?」

「そんなわけはない」


 まったく身に覚えがない。

 初手ブブヅケだったら俺のせいだけどな。


 っていうか、強引な手を使ったら絶対俺に矛先向くだろ。

 だってアイツ、俺を殺る気満々だったもん。


 ああいう手合いは、一度標的と決めた相手には、全く無関係な出来事でも『お前のせいでこうなった!』って糾弾するんだよ。

 風が吹いたら桶屋が儲かる的な。

 きっと、割り箸が妙な割れ方しても俺のせいとか言い出すぞ。


「じゃあ、なんで満席って嘘をつかれたんだろ?」

「評判が落ちるから入れたくなかったんじゃないか」

「あ、それアタシも思った」


 くっくっく。

 ふふふ。


 悪い笑いが個室を満たす。

 それとほぼ同時に、注文の食事が到着した。

 やれやれ。店員は気遣いが完璧だな。


 食事のお代はもちろん、俺が支払った。

 この一飯の恩で、処刑台送りはやめてくれないかな?

 そんな願いを込めて。




          ○




「オレがレストランに入れなかったのはお前のせいだろ!! 決闘だッ!!」


 うん、わかってた。

 でもさ、君ちょっと喧嘩っぱやくね?


 アベルに決闘を申し込まれたのは、登校してすぐのことだ。


 本当に勇者かお前ってくらい目が血走ってる。

 どうやら、レストランに入れなかったのが相当堪えたらしい。


 にしても決闘はないわ……。

 本編だと二人が初めて戦うのは三ヶ月後にある訓練の授業で、だろ?

 シナリオスキップしようとすんなよ。


「アベル、いきなり決闘はないでしょ。そもそもエルヴィンがやったっていう証拠だってないのよ?」

「証拠がなくても俺にはわかる!」

「えぇ……」

「なぜならこいつは悪の親玉だからだ!」

「……。あ、あのさ……証拠もなしに、決闘はよくないよ?」

「一度、立場の違いというものをわからせてやる」


 ダメだ。聖女の言葉でも聞く耳がねえ。

 てか、耳に穴あいてんのか?

 会話になってねぇぞ。


 ぱちり、と聖女と目があった。


(やっぱりこうなったろ?)

(うん、なんかごめん)


 視線で会話すると、勇者がそれを見とがめた。


「ニーナ、まさかお前……グルだったのか!?」

「へ? そんなわけないでしょ」

「まあそれもそうだな」

「む?」


 やけに簡単に引いたな。

 ずいぶん聖女を信頼しているようで。

 だったら少しは彼女の意見に耳を傾けたらどうかな。

 いくら勇者でも、事が大きくなりすぎるともみ消せなくなるぞ。


「とにかく、今すぐ決闘だ」

「……はあ。やめておけ」

「怖いのか?」


 おう、怖いぜ!

 マジでシナリオスキップ発動してこのまま処刑台へGOってなったら、これまでの準備がマジでパァだからな!


 あっ、でもこの煽ってくる勇者の顔はぶん殴りたいな。

 どうしよう?


 俺はラウラとニーナを見比べる。

 どうやら二人は違う意見をお持ちのようだ。


 ラウラ(意訳)「なんとか回避した方がいいんじゃなくて?」

 ニーナ(意訳)「一発殴ったらおとなしくならないかしら?」

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