第22話 いざレベリング!

 休日に、俺は首都アドレアの城壁外へとやってきた。

 今日はいよいよ待ちに待ったレベリング。


 といっても、ウルフとかゴブリンをちまちま狩るつもりは毛頭ない。

 そんなことしてたら、レベル上げに時間がかかりすぎる。


 これからやるのは裏技――というか、お助けモードだな。


 プロデニは普通にプレイしていても、中盤に入った途端に詰むパターンが存在する。

 高等生時代にステータスを最適な数値まで上げられなかった場合、レベルアップによる効果が満足に得られず、ボスを倒すどころか雑魚敵ですら倒せなくなるのだ。


 まあ、VRに慣れた中・上級者クラスになると、うまく立ち回れば詰むことはないんだけどな。

 ただ、初心者にはかなりキツイ局面になる。


 そんな時に利用出来るのが、お助けモード――と俺が勝手に呼んでいる方法だ。

 もしこれが用意されてなかったら、また学生時代からやり直すハメになるからな……。


 すげぇ時間かかるんだよ、学生時代。

 全ルートをクリアするまではいいんだけど、ハードモードをクリアする時は同じシナリオを延々と見続けなきゃいけないから、わりと苦痛だったな……。


 さておき、俺は記憶を辿って小さな洞窟に足を踏み入れる。

 この洞窟は、入ってすぐ崖になっている。


 崖の下は暗すぎて見えない。

 ゲームで試しに落ちたことがあるが、途中から画面が真っ暗になって、そこから『デッドエンド』の文字が出るまで相当時間がかかった。


 今は怖くて覗き込むことさえ嫌だ。

 リアル落下エンドは経験したくない。


 さて、レベリングだが、特に難しいことはない。

 崖に向かってただ石を投げ続けるだけだ。


 その辺にある石を、ぽいぽい崖に向かって投げていく。

 しばらくぽいぽい投げていると、突如レベルが増加した。


○名前:エルヴィン・ファンケルベルク

○年齢:10歳  ○肩書き:貴族の当主

○レベル:4→10

○ステータス

 筋力:62→156 体力:64→160

 知力:62→156 精神力:1364→3410


○スキル

 ・大貴族の呪縛 ・剣術Ⅱ ・身体操作Ⅰ ・魔力操作Ⅱ

 ・強化魔法Ⅰ ・闇魔法Ⅲ ・威圧Ⅰ ・調合Ⅰ

○称号

 ・EXTRAの覇者



「よっしゃ来たぁ!」


 ありがとうプロデニ!

 このシナリオでもこれを残しておいてくれて助かった!!


 いやあ、万一エルヴィンのシナリオか、はたまたプロデニの中に入った途端に、このお助けモードがなくなってるんじゃないかって、少しヒヤヒヤしてたけど、あってよかった。


 おそらくこの崖の下には大量の魔物が生息しているんだろう。

 そこに大量の石シャワーが落ちてきて、少しずつHPが削られて、死亡する。

 結果、石を投げたプレイヤーのレベルが上がる、と。


 かなりお手軽なレベリングだが、この方法ではある程度までしか上がらない。


 そりゃそうだ。

 これは開発側が作った公式チートだしな。

 ここだけでレベルをカンスト出来るぜ! みたいな壊れチートには絶対ならない。


 石をどれだけ放り込んでもレベルが上がらなくなったのは、夕方の三時を回った頃だった。


「うむ。プロデニでやった時と同じレベルくらいにはなったな」



○名前:エルヴィン・ファンケルベルク

○年齢:10歳  ○肩書き:貴族の当主

○レベル:10→51

○ステータス

 筋力:156→796 体力:160→816

 知力:156→796 精神力:3410→17391


○スキル

 ・大貴族の呪縛 ・剣術Ⅱ ・身体操作Ⅰ ・魔力操作Ⅱ

 ・強化魔法Ⅰ ・闇魔法Ⅲ ・威圧Ⅰ ・調合Ⅰ

○称号

 ・EXTRAの覇者



「相変わらずメンタルが鉄壁だな……」


 ここまで育ったら、そんじょそこらの魔法は全部無効化できる。

 たぶん、魔王クラスの魔法じゃないとダメージ受けないんじゃなかろうか?


 これで、10歳児だもんな……。

 末恐ろしいわ。


 他のステータスについては、まあこんなもんか。

 普通の学生が束になっても勝てないレベルにはなったが、勇者相手にはまだ心元ない。


 とはいえ、この上を目指すとなると、ドラゴンクラスの魔物を討伐するしかない。

 そんなものとはまだ戦えない。

 強い魔物と戦うにしても、かなり遠くに行かなきゃいけないしな……。


 ここからは、基礎を上げた方が効率的にステータスを伸ばせる。


 少しでも手を緩めれば、処刑台まっしぐら。

 そうならないように、頑張って基礎を鍛えよう……。





          ○




 ヴァルトナー家の執務室で、エレン婦人は頭を抱えていた。

 自分たちがこれまで築き上げてきた信頼や資産が、今まさに悪魔達(ファンケルベルク)によって吸い尽くされようとしている。


 その原因を作ったのは、エレンだ。

 毒入りファンデーションの売り上げに目がくらみ、ファンケルベルク婦人への忠告を怠ったばかりに、そのツケを現在全力で支払わされている。


 しかし、それにしても容赦がない。

 化粧品商を叩き潰すまでは、良かった。

 化粧水と石けんというメリットが、化粧品商を潰すデメリットを相殺したから、こちらにはなんの痛手もなかった。


 だがその後、資材や食料品を足がつかないように卸さねばならなくなった。

 それも尋常ではない数量を、だ。


 エレンはこれまで培ってきた能力すべてを発揮して、物流を隠し通した。

 そのためには、自らの信頼と、資産を切り崩す必要があった。


(このままでは、骨の髄までしゃぶり尽くされる……)


 年に十億を越える物資を購入するファンケルベルクは、一体何をしでかすつもりなのか……。

 城でも建てる気か?


 頭に浮かんだ憶測は――エレンの全身に植え付けられた恐怖が即座にかき消した。


『あまり深入りしない方がよろしいですよ』

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