第3話 現状把握
朝食を取ったあと、学校に向かう。
9歳児のエルヴィンは現在、初等部の三年生だ。
学校までは馬車で10分。
家からだいたい2キロくらいか。
勉強は簡単……だよ。
ハハハ。大人な俺が、日本でいうところの小学三年生にあたる勉強がわからないはずないじゃないか!
授業を受けながら、俺はこれからの方針を決める。
ここから高等部に入学するまでに、俺は勇者対策を済ませておかなければならない。
必要なものは三つ。
金と力と、アイテムだ。
まず金だが、これは俺が自由に使えるお金という意味だ。
ファンケルベルクは決して貧乏ではない。
平民からみれば目が飛び出る程の資産を抱えている。
だがそのほとんどは、使えないお金――現金ではない。
不動産(家)とか、動産(宝物)とか、お金じゃないものが圧倒的だ。
使えるお金も、予算として年度単位で使途が決まっている。
家の維持費、使用人の雇用、交際費、税金などなど。
公爵って、すごい金かかるのな……。
収入からみると、俺のお小遣い一万分の一もないぜ?
今後、俺が自由に動くためには、お金が必要だ。
特に絶対に確保すべきものがあるが、それには莫大なお金がかかる。
というわけで、俺は大金を稼がねばならない。
金稼ぎの方法だが、転生した場合のお約束というものが日本にはあってな……。
それを利用すれば、あっという間に億万長者だ。
……たぶん。
自信はまったくない。
まあ、ひとまずやってみて、ダメなら別の方法を考えよう。
次に力だが、これは基礎値が重要だ。
プロデニでは高等部生活でステータス基礎値を固める。
この基礎値は、レベルと同じくらい重要だ。
なぜなら最終ステータスは、レベルと基礎値を元に計算されるからだ。
単純計算になるが、レベルが99でも基礎腕力が1だったら、99にしかならない。
だが、基礎腕力が100あったら、ステータスは9900になる。
この基礎値を、ゲームでは三年かけて育てるが、今の俺にはトレーニング期間が7年もある。
これは大きなアドバンテージだ。
この7年で精神力以外のステータスを上げて、有用なスキルを身につける。
あわよくば、レベルも上げておきたいところだ。
勇者は高等部生活で、ほとんどレベリングが出来ないからな。
こちらがある程度レベルを上げておけば、勇者に後れを取る可能性は限りなく低くなる。
そして最後は、アイテムだ。
これは本来ストーリーを進めるに当たって手に入るアイテムを、先んじて取得してしまおうというものだ。
俺はプロデニを完璧にクリアして、隅々まで知り尽くしている。
どこに何があるか、どれくらいのステータスならどのアイテムが入手可能かが、手に取るようにわかる。
勇者よりも先に、強いアイテムを入手しておけば、処刑イベントで命を落とす確率を大きく下げられる。
特に優先度が高いのは、
1,世界に一点しかないもので強力な武具。かつ手の届く範囲にあるもの。
2,身を守るための有用なアイテム。
3,世界に数点はあるが、強力な武具。
といったところだな。
手の届かない範囲にある――たとえば他国がそうだ――ものはあらかじめ選択肢から除外だ。
いまのエルヴィンじゃ、遠出なんて出来るわけがない。
飛行機があれば別だけど。
この世界にはそんなものはない。
地道に馬車で移動するしかないけど、他国まで何日もかかる。
9歳児にそんな旅は出来ない……というか、絶対に大人に止められる。
「……まっ、こんなところだな」
授業終了の鐘がなる頃には、方針がかたまった。
下校する前に、教室を見回す。
いろいろ考え事があったから後回しにしてたが、どうしても気になることがある。
このクラスの子たち、なんか俺を避けてね?
朝、学校に来てから誰にも話しかけられてないんだけど!!
おかしいな。
子どもって、顔を合わせたら誰とでも友達になれる種族じゃなかったか?
教室を見回していると、複数人と目が合う。
けれどその子たちは皆同じように、肩をふるわせてすぐに視線を切った。
えっ、なんか猛獣でも見たような顔してない?
エルヴィン、普段なにやってたんだよ……。
子ども時代に友達作っておかないと、後々きついぞー。
大人になったら、友達なんてまず出来ないからなあ。
だから俺はずっとボッt……うっ、頭が……。
「大将、お疲れ様でした」
「うむ」
校門を出ると、使用人の一人ユルゲンが馬車で出迎えてくれた。
彼はファンケルベルク家における武を司ってる。
担当は、裏社会と抗争鎮圧。
いざという時は、使用人をまとめ上げてカチ込みの号令をかける司令塔になる。
そのせいか、言葉は穏やかなんだけど、絶対何人かヤってますよね?って雰囲気がある。
ちょっと怖い。
……ってか、冷静に考えて抗争鎮圧の〝担当〟ってなんだよ。
担当を付けなきゃいけないくらい、頻繁に抗争があんの?
ここは修羅の国かなにかなの?
「ユルゲン。少し寄りたいところがある」
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