トリづくし
星見守灯也
トリづくし
とりあえずビールと言い出したのは誰だったのか。
俺はグラスを手に、一気にビールを流し込む。乾いた喉に触れた冷たさ。シュワシュワした炭酸が溜まり、ゴクンと飲み込む時の喉越しが堪らない。アルコールとホップの苦味が鼻に抜けていく。プハーッ、うまい!
そうしているうちに焼きたての焼き鳥が来た。ねぎまは王道、つくね、レバー、ハツ、皮。タレはいい。ささみ、せせり、軟骨、ぼんじり。塩もいい。ビールを一口、焼き鳥をがぶり。串を引けば口の周りに油が溢れるが気にしちゃいられない。どうしてこんなに美味しいんだろう。俺をどうしようというんだ。そしてまたビール。
「ビール、もう一杯」
それからお楽しみの唐揚げ。まずはそのままカリッ。カリッサクッとした衣を通り過ぎると肉汁がでてくる。柔らかいあちあち肉に歯が食い込んで、あーもう、ダメ。ダメですよこれは。卑怯すぎる。ほふほふとして噛み締めるたびに肉の味が出てくる。
口の中のものを飲み込まないうち、俺はマヨネーズを手に取った。ぐにゅっとひとまわし、一味をさっさっ。いいねえ、油に油。最高じゃないか。脂っこくなりそうなのを、辛味があるといくらでもいけてしまう。
残念ながら、この店はねぎダレもおいしい。みじん切りにした長ネギに、しょうがとニンニク、ごま油の香りが合わさったタレは絶品だ。ちょっと唐揚げを浸けて、衣がわずかにしなっとなったところが俺は好きだ。サクサクとは違ううまさ。胃袋の入り口が緩みっぱなしだ。
「最後に、もう一杯。あと、なんかちょうだい」
ビールと出てきたのは蒸し鶏と千切りきゅうりの酢の物。うん、口の中がさっぱりする。いいねえ、いいねえ。三杯目は、じっくり味わう。一口目のうまさは言葉にできないが、だからといって二杯目三杯目が不味くなるわけでもない。プハァと息を吐いてうまさを確認する。
「大将、この酢の物、〆にいいね」
「はい。〆に鶏和え酢(トリあえず)、ということで」
トリづくし 星見守灯也 @hoshimi_motoya
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