第12話 戦利品をあさる

 最奥の部屋は、金銀財宝に埋もれた棺があるだけだった。眠っているおそらくS級悪魔の処理を美海ちゃんに任せて、僕は【トラップ解除】を使用してトラップがかかっている宝箱を開けて戦利品を持てる限り持ち出した。


 呪いを無効にする赤い外套がいとうに、魔法威力を上げるネックレス。これは美海ちゃんにプレゼントした。


 他にもいろいろあったが、僕は【俊敏】強化の指輪をもらった。今回のことで前衛には素早さが必須だといろいろ痛感したからだ。


 ギャラハンの壁抜けの指輪もあるし、僕はまだ実力が伴ってないから、あとはなにかいい装備をネット通販で買うための資金源にしよう。呪いを無効化する外套なんて、S級配信者くらいになれば喉から手が出るほど欲しいだろう。


 そんなふうに部屋を漁っていると、ダンジョンボスである悪魔が死んだことによってダンジョンが崩壊を始めた。ボスを倒すと消える系のダンジョンだったらしい。めぼしいものは手に入れたし、これで危険な罠を突破する必要もないので一安心だ。


 背中を切られて破けた僕の服もダンジョンから出たら元通り。また買う必要がなくてよかった。


 そうして僕たちはダンジョンの入り口があった場所に戻された。時刻は夕方の四時半。超時間探索していたから時間が経つのも早い。それに緊張から解放されたからかお腹がぐう、と鳴った。


「そういえばお昼食べてなかったものね。配信が終わったらご飯にしましょう」


「うん、お腹ぺこぺこだよ」


「そういうわけだからみんな。配信はここまで! 長時間付き合ってくれた人はありがとう。今来た人はごめんなさい。また配信すると思うから、そのときは見に来てね」


 美海ちゃんがカメラに向かってウィンクすると、千円から数万にものぼるスパチャがどっと流れた。元からお金持ちなのにこうしてお小遣いを稼いでいるのか。恐ろしや美海ちゃん。


『理央ちゃんもまた出てくれるの?』


『バディ組んだりとか』


「それはわからないわ。もしリオにその気がないのなら無理強いになっちゃうから、そのときは残念だけどわたし一人で我慢して。でも、たまにはゲストに来てくれてもいいのよ?」


「うん。たまになら美海ちゃんと戦って勉強になると思うから」


 美海ちゃんはちょっと残念そうな顔をして、チークキスをしてくる。僕は今回とてもお世話になったので美海ちゃんの二の腕に触れてそれを受け入れた。コメント欄は「百合だあああああああ!」と大騒ぎ。どこまで好きなんだこの人たち。


「じゃあ、仲良しぶりをアピールしたところで本当におしまい。また配信でね」


『うん、美海ちゃんと理央ちゃんお疲れー』


『お疲れさまでした』


『また配信待ってるよ!』


 美海ちゃんはカメラに笑顔で手を振りながらコメントを見つめていたが、やがて浮遊する配信機材のスイッチを切って配信を終えた。そして持ち歩いていた袋の中に配信機材を入れ、スマホを取り出すと電話をかけ始めた。タクシーだろうか。


 僕は電話をする美海ちゃんを見ながら、ぼーっと今日のことを振り返っていた。美海ちゃんの圧倒的な力を前にほとんどなにもできなかった自分が悔しい。美海ちゃんにそれを言えば「気にしないで」と言ってくれるだろうけど、強くならなきゃ。


 電話をかけ終えた美海ちゃんがぼーっとする僕に甘えるようにすり寄ってくる。そっか、一緒にダンジョンを攻略して、悪魔を一緒に倒したんだもんな。信頼は芽生えているって言っても不思議じゃないか。


「今日は助けてくれてありがとう。かっこよかったわ」


「か、かっこよかった? 僕」


「ええ。天使になったところなんて、妄想の中のあなたぴったりでうっかり惚れそうになってしまったもの」


 そ、そうかな。かっこよかったかな。それならTS薬飲んだのもあながち悪くなく思えてくる。男の僕だったらあのまま首を刈られておしまいだったから。


「そういえば、駅前のどこかでご飯食べるの?」


「いいえ。せっかくだもの。リオのお父様とお母様がいらっしゃらないならうちでご飯を食べていかない? お泊りもいいわね」


「え。そんな、悪いよ」


「あなたのおかげで無事踏破できたのだからこれくらいさせて。明日はわたしの家の車で家まで送り届けるから安心して」


 そこまで言われると断りづらい。家に帰って自炊するのもちょっと面倒だったし、交友関係を深めるという意味でお邪魔するのもいいかも。広い部屋なら一緒の部屋になって貞操の危機とかなさそうだし。


「じゃあ、お言葉に甘えよっかな」


「うれしい! タクシー、ニ十分くらいで来るらしいからしばらく待ちましょ。それに、自分のチャンネルを確認したほうがいいかもしれないわ」


「え……」


 そういえば、ダンジョン内ではスマホが圏外になって使えないことを思い出した。あれだけ反響があったんだ。十人くらいは増えて……。


「ご、五千人も増えてる!?」


「あら、たったの五千人? 思ってたより少ないわね」


「十分すぎるよ! うわあ、過去のアーカイブにコメントも残ってる……。うう、恥ずかしい」


「恥ずかしがるリオもかわいいわね」


 美海ちゃん、今はそういう問題じゃないんだよ。男でよわよわな僕を見られて恥ずかしいったらない。すべてTS薬とそれを生みだした里奈が悪いんだ。明日は里奈も研究所休みだろうし、今日連絡して明日こってりお説教だ。


 そんなことを考えながら話しているうちにタクシーがやってきて、二人して乗りこみ来た道を戻っていく。


 美海ちゃんの家はこの駅で、駅前にくると白い、いかにも高級そうな車が停まっていた。運転手さんがこちらに気付くと車を降りて直角に礼をしたと思うと、歩み寄ってきて僕が抱えていた外套を持ってくれる。


「イシダ。友達のアマナイリオ。今日は家に泊まる予定よ」


「かしこまりました、お嬢様。天内あまない様、わたくし、運転手の石田と申します。以後お見知りおきを」


「ご丁寧にありがとうございます。お世話になります」


 僕がそう言うと、石田さんはまた礼をして運転座席に乗りこみ、後部座席のドアを開いた。こんな待遇受けちゃうと、本当に美海ちゃんってお嬢様なんだなって思う。美海ちゃんが奥側の席のほうに座ってくれたので、僕は甘えて手前から後部座席に乗る。


 僕たちが乗ったのを石田さんが確認すると、ゆっくり車は前進して駅の敷地内から出た。座席がふかふかで気持ちいい。


「リオ、高級車に乗るのは初めて? 緊張してるわよ」


「う、うん。こんないい車に乗ったのは初めて。座席もふかふかで……思わず寝ちゃいそう。家にはどれくらいで着くの?」


「歩きだと十五分くらいだけど、車なら五分ほどよ。あっという間でごめんなさい」


「ううん! 貴重な体験させてくれてありがとう!」


 僕の言葉を聞いた美海ちゃんが嬉しそうにはにかむ。そんな笑顔を見て僕も恥ずかしくなって顔を赤くする。


 美海ちゃんの宣言通り五分ほどで広い邸宅についた。駐車場も完備していて、石田さんが運転する車は駐車場に入っていく。


「お嬢様、到着いたしました」


「ありがとう、イシダ。さ、リオ、いきましょ」


「うん。石田さんありがとうございました」


 軽く会釈をすると、石田さんは笑顔で見送ってくれた。


 どこかの芸能人の家かと思うほど広くて大きい家の玄関先まで行くと、オートロックの玄関だった。美海は財布を取り出すと、カードキーをセキュリティの機械に通す。するとガラスのドアが開き、玄関にたどり着いた。


 美海ちゃんは勝手知ったるなんとやらで玄関を開けると、堀の深い顔立ちの、くすんだ金髪に緑の目をした超絶美人がエプロン姿で立っていた。ちょっと冷たく感じる表情が美海ちゃんによく似ている。


「ミナミ、おかえりなさい」


「ただいま戻りました、お母様。お友達のリオよ」


「まあ、アナタがミナミの言っていたリオちゃんなのね。ワタシのミナミをよろしくね」


「はい、よろしくお願いします!」


 わああ、ところどころ片言なのがドイツ人って感じがしてドキドキする……! こんな美人なお母さんなんだ。お父さんはどんなイケオジなんだろう。


 そんな期待を抱きながら、美海ちゃんのお母さんに言われるまま玄関から家にあがった。そしてリビングに通されて、そこにいたのは……。

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