トリあえず

MURASAKI

トリはダンスを踊る

右に左に羽根を大きく広げてステップを踏む

ぼくを見て?

ほら、素敵な羽根だろう?


繊細でダイナミックな羽根は水色から濃い青へのグラデーション

細部までこだわった毛づくろい

羽根の先は黒

だけどかなりこだわりの黒


生まれた時に母さんトリが言ったんだ

おまえの羽根は綺麗だね

素敵な奥さんを見つけられるだろうねって


だから胸をはってダンスを踊る

ハト胸って誰が言ってるのさ?

トリだったらだいたいハト胸だろう?

猫背でないネコがいないのといっしょさ


右に左に羽根を大きく広げてステップを踏む

素敵だろう?

ほら、華麗なステップさ


キミを見つけて囁く愛の言葉は高音から低音へのグラデーション

心だけはこもった愛の歌

声の先はキミ

だけどかなりこだわるキミ


そんな変調の歌は嫌だと言ったんだ

わたしの好きな歌だね

素敵な音階を見つけられたんだねって


だから胸をはって歌を歌う

ハト胸って誰が言ってるのさ?

トリだったらだいたいハト胸だろう?

猫背でないネコがいないのといっしょさ



 私の家に歌を歌いに来る変なトリが変ヘ長調のヘンな歌を歌いにやってくるようになったのは、ほんの一週間ほど前からだ。

 ベランダにちょこんと乗って、右に左に身体を動かしながら羽根をバサバサと広げている。ネットで調べると、求愛の行動らしい。


 でもおかしいのは鳥の求愛行動ではない。

 トリが必死に求愛ダンスを見せているのはうちのネコのミーコ。

 ミーコはもう高齢で、間もなく空を渡るくらいの年齢で、目もほとんど見えていないし耳も聞こえていない。

 そんなミーコに向かってトリは必死で歌い舞い踊る。


 それから三日後にミーコはこの世を去った。

 とても悲しくて、小さな小さなお葬式を挙げて家に戻ると、あのトリがベランダに来ていた。けれど今日は踊っても歌ってもいない。


「ごめんね、ミーコは虹の橋を渡ったの」


 べしょべしょに泣きながらトリにむかって話したら、トリは頭を100度ほどかしげて飛び去った。


 ネコの死に、トリあえず。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トリあえず MURASAKI @Mura_saki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画