とりあえず初恋でも【KAC20246】

薄味メロン@実力主義に~3巻発売中

取り合えない手

 突然鳴った、アイツからの電話。


『とりあえず、わかれてほしい』


「……ん。わかった」


 理由は、聞いてやらない!


 そう自分を奮い立たせる。



「じゃあ、また、学校で……」



 必死に涙をこらえながら、私は電話をきった。


 わかれるのはいい。


 なんとなくだけど、そんな気はしてた。


「最近は、目もあわせてくれなかったしね」


 昨日は一緒に帰ったけど、アイツはあんまり楽しそうじゃなかった。


 話してたのも、私ばかり。


 だけど、


「とりあえずってなによ」


 悔しくて涙がでる。


 思い浮かぶのは、電話の事ばかり。


「わかれたくないって、言えば良かったのかな」


 そんなことをしても、意味なんてない。


 同情で付き合い続けても、元通りには戻れない。


 そう思ってしまう自分が、ほんとに嫌いだ。


「可愛げがないから捨てられるんだよね……」


 とりあえずって言われたけど、すっごく悩んだ結果なのもわかってる。


「私があげた折り紙を未だに残してるくらいだもんね」


 本当に、どこで間違ったのかな。


 そう思っていると、メールが届いた。



   意地っ張りな義理の姉へ


  親父の転勤で 海外に引っ越します。

  今から電車に乗って そのまま空港です。

  もちろん 兄も一緒です。


     口止めされていた義理の弟より

                    』




「……ほんとバカ!」


 アイツも、私も!


 ちらりと時計を見て、とるもの取らずに家を飛び出した。


 向かうのはもちろん、駅のホーム。


 引っ越しを内緒にして別れ話とか、アニメの見過ぎ!


「かっこつけすぎなのよ!」


 そう思うけど、気付けなかった私は、もっとバカだ。


「ああ、もう!」


 ホームには電車が到着していて、ドアが閉まっていた。


 走り出す電車の中で、アイツが目を見開いている。


「捨てられないのは、あんたたけじゃないの!」


 自慢じゃないけど、私は整理整頓が苦手だ。


 大切なモノは、絶対に捨てられない。



「今度は私が拾いに行くから!」



 そう言って、手を伸ばす。



「臆病だけど、海外でも、どこでも!!」



 離れていくアイツが、優しく笑ってくれた気がした。

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