第14話「魔物対策をはじめる(1)」

 それから、俺は精霊にお願いして、石壁に幅数メートルの隙間すきまを作ってもらった。

 そこにとびらを着ければ出入りも自由にできるはずだ。

 あとは──


「扉はこのあたりでいいですか? もうちょっと高い方がいいとか、広い方がいいとかのリクエストがあれば」


 俺はとりでの人たちにたずねた。


「…… (ぼーっ)」


 返事はなかった。

 シャトレさんや兵士たちは、また、呆然ぼうぜんと防壁を見つめてる。


「シャトレ部隊長。コーヤさまが質問をされていますよ?」

「……はっ! も、申し訳ありません!!」


 アリシアが呼びかけると、シャトレさんはあわてて近づいてくる。

 彼女は俺たちの前にひざまずいて、


「と、扉の位置は、あのあたりで大丈夫です。すみません……あまりの光景に……心が震えておりました」


 シャトレさんは興奮した表情で、


「かわいい精霊の力で……山の魔力の乱れを解消していただいた上に、かわいい精霊の魔法で巨大な防壁を作ってしまわれるなんて。信じられないくらいかわいい……い、いえ、信じられない光景でしたので」


 そう言ってシャトレさんは深々と頭を下げた。


「異世界人の……いえ、精霊王のアヤガキさまに感謝いたします。これで魔物との戦いも楽になるでしょう。ありがとうございました!」

「これで、魔物はこの場所に来なくなりますか?」

「魔物の数は減ると思います。結界を張っていただきましたし、この防壁も、魔物からは脅威きょういに映るでしょうから」

「……魔物の数は減る、ですか」


 結界を張って、防壁を作っても、やっぱり魔物は来るんだよな。

 山は魔物の住処すみかだから、しょうがないんだけど。

 灰狼侯爵領はいろうこうしゃくりょうの山から、完全に魔物を駆逐くちくする方法ってないかな。山にくってる魔物の数を限界まで減らして、灰狼侯爵領に手を出すのは危険だってわからせる方法が。

 マジックアイテムと精霊王の力で、なんとかできないだろうか。



 ずどどどどどどどっ。



 そんなことを考えていたら、山の方で大きな音がした。


「山の魔物たちが移動をはじめております!!」


 見張り台で、兵士さんが声をあげた。


 俺とアリシアとティーナは、急いで見張り台へと登っていく。

 頂上に立つと……山の中腹ちゅうふくに魔物が集まっているのが見えた。


 数は──20から30くらい。

 距離があるから、どんな魔物なのかはわからない。

 視力のいい兵士たちによると、オーガやゴブリンがいるそうだ。あとは豚のような頭部を持つ魔物──オークや、巨大な蛇──ジャイアント・ヴァイパーなんてのもいるらしい。


「魔物たちは灰狼領をおそおうとしていたのかもしれません」


 俺の隣で、アリシアが言った。


「そうしたら『ギガンティック・ストーンウォール』が現れたので、混乱しているのかと」

「魔力の乱れが消えて、結界が生まれたことも関係しているの」


 ティーナがアリシアの言葉を引き継いだ。


「環境が変わったことにおどろいて、変な動きをしているの」

「やっぱり、この土地は魔物が多いのか……」


 しばらくは襲ってこないかもしれないけど……魔物がうろうろしてたら落ち着かない。

 灰狼侯爵領はいろうこうしゃくりょうの人手が少ないのは、魔物の攻撃を防ぐのに人員を取られているからだ。


 この機会に、魔物が灰狼侯爵領に近づかないように対策しておきたい。

 精霊王の力で、大きめの魔法を撃っておこう。

 ここから届くかどうかはわからないけど、警告けいこくにはなるだろ。


「精霊たち。まだ魔法は使える?」

「「「問題なしですー」」」

「それじゃ、昨日使った魔法を試してみよう。ティーナ、再度イメージを伝える必要はある?」

「大丈夫なの! ちゃんとマスターは、ティーナの中にあるの」


 ティーナは照れたようにうなずく。

 それから俺は──


「シャトレさん。それから、兵士さん。山に入っている人はいませんね?」

「お、おりません! 常にとりでの者たちが監視かんししております。それに、魔物がいるあたりは奴らのナワバリです。人間が近づくことはありません!!」

「了解しました。それじゃ、衝撃しょうげきそなえてください」

「……え?」

「アリシアも、心の準備をしていて」

「は、はい。コーヤさま」


 アリシアが耳をふさぎ、よくわかっていないシャトレさんや兵士さんたちも同じようにする。

 俺はそれを確認して、山に向かって杖を構えた。



「距離があるから全力で行くよ。いいかな?」

「はい。マスター」

「「「しょうちですー!」」」


 そうして、ティーナが魔法の詠唱えいしょうをはじめる。



「『精霊王の名のもとに、精霊姫ティーナがすべての精霊の力をたばねる。大いなる爆炎よ。天をがし、王の権威を世界に示すがいい!!』」

「「「「王の権威を世界に示すです!!」」」」



 ティーナの言葉を、精霊が唱和しょうわする。

 詠唱が終わったのを確認してから、俺は杖を振る。

 そして、全員で声をそろえて、告げる。



「「「「「燃え尽きよ! 『インフェルノ・ボム』!!」」」」」



 現れたのは、光の球体。サイズは俺のこぶしくらい。

 それは一直線に、山へと向かって行き──



 ズドオオオオオオオオオォォォォン!!



 魔物たちを巻き込むほどの、巨大な爆発を生み出した。




「──ギェ?」

「──ガガッ!?」

「──グガァアアアアアアッ!?」



 魔物の絶叫が、ここまで聞こえてくる。

 焼け焦げた魔物が宙を飛び、山の上の方へと飛んでいく。

 空中で爆発した魔法は爆炎ばくえん衝撃波しょうげきはらし、魔物もろとも消滅した。


 魔物が吹っ飛んだ。

 ……と、思ったら、影も形もなくなった。

 光と熱が消えたら、地面が灼熱しゃくねつしてた。

 問答無用の威力だった。



『『『ギィアァァァァ…………!!』』』



 山の上の方から、魔物の悲鳴が聞こえる。

 見張りの兵士さんによると、他にも魔物の群れがいたらしい。

 仲間が一瞬で消し飛んだのを見て、逃げ出したようだ。


「警告にはなったかな」

「はい。これでしばらくは、魔物は山を下りてこないと思います」

「……下りてこない、か」


 山の魔物はすべて駆逐くちくしたわけじゃない。

 逃げた者もいる。山の中に魔物の巣が残ってたりもするだろう。


 せっかく魔物対策をはじめたんだ。

 今のうちに、できるだけのことをしておこう。


「精霊たちに質問。もう少し、仕事をしてもらってもいいかな?」


 俺は精霊たちにたずねた。



「──大丈夫なのですー!」

「──集団魔法を2発撃っただけですから、余裕あるですー」

「──お役に立ちたいです! お仕事させてください!!」



「ティーナにも聞くけど、ティーナや精霊たちの体力と魔力は大丈夫?」

「問題ないの」


 ティーナはうなずいた。


「集団魔法は、精霊たちがちょっとずつ魔力を出し合って実現するものだから、ひとりひとりの魔力消費はたいしたことないの。まだまだ、お仕事はできるの」

「わかった。それじゃ、山の魔物を駆逐くちくするのを手伝って欲しい」


『インフェルノ・ボム』のおかげで、魔物たちは動揺どうようしてる。

 奴らが体勢を立て直す前に、できるだけ数を減らしておきたい。

 灰狼領に近づくのが危険だってことを、思い知らせておきたいんだ。


「それじゃ、作戦をはじめよう」


 俺は精霊と『幻影兵士ファントム・ソルジャー』の力で、山の魔物を駆逐くちくすることにしたのだった。



──────────────────────



 次回、第15話は、明日の夕方くらいに更新します。




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