第2話 王族の影と夜の使者

夜が深まり、渚王国の静けさは更に深いものになる。ピットは、自宅の隠し部屋で黒装束に身を包み、牛鬼の仮面を手に取る。鏡に映る自分の姿に、彼は一瞬、ため息をつく。国王の弟、渚鹿丸君としての彼と、討伐人としての彼。二つの世界を生きる彼の運命は、この仮面によって象徴されていた。


こくすけとやよいは、ピットが準備を整えるのを静かに待っていた。やよいが持ってきた情報によると、王国の外れの村を襲う盗賊団がいるという。国王である兄、渚大治郎は、ピットが闇の力を持つことを知る数少ない人物。だからこそ、彼はピットに討伐の任務を密かに託していた。国王の弟という立場は、彼に重大な責任と孤独をもたらしていたが、同時に王国を守る力も与えていた。


夜風が冷たく、ピットたちは村へと向かう。道中、ピットは自身の運命に思いを馳せる。彼がこの力を持つ理由、そしてこれからどう生きていくべきか。しかし、その問いに答える暇もなく、彼らは盗賊団に遭遇する。


盗賊たちは、甘い夢を見ていた。王国の端の静かな村、抵抗する者などいないと。しかし、彼らが見たものは、黒装束に身を包み、牛鬼の仮面をつけた一人の影だった。ピットは闇の力を抑えながら、盗賊たちに立ち向かう。彼の動きは素早く、決して闇の力に頼ることなく、盗賊たちを一人、また一人と倒していく。


戦いが終わり、村は再び平和を取り戻した。村人たちは、夜の使者が守ってくれたと噂をする。しかし、その使者の正体を知る者はいない。ピットは、仮面をつけたまま、静かに村を後にする。彼は知っていた。これが彼の運命であり、彼が国王の弟として、そして渚王国の影として選んだ道だった。


朝が来ると、ピットは再び渚鹿丸君、そして教師としての日常へと戻る。しかし、この夜の戦いが、彼の物語の始まりに過ぎないことも。

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