第74話 肉!野菜!肉!



 スイカ割りは俺とふーちゃんが十二秒で優勝。

 賞金も商品もないが、ふーちゃんが『すごかった』と言ってくれたので俺としては大満足である。


 貸してもらった棒とシートを、斑鳩さんに返却する前に綺麗にしようとしていたところいつの間にか彼女は俺の横に立っており、『あとで私たちもスイカ割りをするからそのままで大丈夫』と言葉を残し、颯爽と去って行った。


 もしかして俺たちに手間を掛けさせないために気を遣ってくれたのだろうか? 急に現れたりするような変なところはあるけど、いい人なんだよなぁ。でも誠二、あの人は止めたほうがいいと思うんだ。俺の第六感がそう言っている。


 割ったスイカをバクバクと食べたあとは、準備が完了したバーベキューコンロを九人で囲んだ。一つのコンロに対して九人は当然ながら多い。


 みな思い思いにふらふらとあたりを移動しながら、バーベキューを楽しんでいた。


「邁原くん、このお肉あげる」


 水着の上からパーカーを羽織ったふーちゃんが、俺の持つ紙皿にお肉を乗せてくれる。綺麗に焼き目がついたカルビだ。


「私が育てたお肉だよ」


「それは味わって食べないとなぁ。可能なら額縁に入れて飾りたいぐらいだ」


「お肉がもったいないからダメ」


 まぁそれはそう。食べるために焼いてくれたのだから、食べないと失礼だ。

 味覚に全神経を集中させてふーちゃんの焼いたお肉を味わい、俺は俺で育てていたお肉をふーちゃんの持つお皿に乗せる。


「ありがと」


「どういたしまして――おい誠二、肉ばっかり食うんじゃない、野菜も食え野菜も」


 俺の隣でひょいひょいと肉をお皿に乗せ、さらに追加の肉を網に並べる誠二。


「僕が乗せておくよ」


「あーっ! やめろ和斗! 俺玉ねぎ苦手なんだって! 知っててやっただろ!?」


 誠二が玉ねぎ嫌いなのは俺たちの中では共通認識である。でも、アレルギーとかじゃなくて、ただ単に味が苦手とのこと。


「まぁ無理に食べろとは言わないけど、そろそろその苦手克服しといたら? 前に自分で『苦手を無くす!』言ってたよね」


「……あれはサッカーの話だけどな」


 誠二は和斗の言葉に反論すると、じっと皿の上に乗った玉ねぎを見つめてから、勢いよく肉と一緒に口の中に放り込んだ。もぐもぐと咀嚼しているが、表情は案外普通だった。


「肉と一緒ならいける。ハンバーガー理論だな」


「なにその理論」


 俺たちがそんなやりとりをしている間に、ふーちゃんは有紗に呼ばれて女性陣グループのほうに行っていた。俺の傍を離れるときに、彼女は耳元で「向こうに行ってくるね」と言ってくれたのだけど、なんだかカップル感があって大変良かった。


「さぁさぁふっかちゃん、好きとか嫌いとか、恋人とか友達とか、そういう話は別にしなくてもいいからさ、勇進のどこが好きか教えてよ~」


 少し離れたところでそんな陽気な有紗の声が聞こえてきたので、俺はふーちゃんイヤーの機能を停止。めちゃくちゃ気になるけど、たぶん聞かれたくないだろうからなぁ。




「き、聞いてないよね?」


 しばらくして、ふーちゃんが俺の元に戻ってきた。彼女は俺に顔を見られないようにするためか、せっせとコンロの上のものを裏返したりしている。


「聞かれたくないだろうなって思って、誠二たちの会話に集中してたよ。あと、もし『好きなところはない』なんて答えが聞こえたら、俺失神しちゃいそうだし」


「そ、そんなこと言わないもん!」


 おやおや、それはつまり『邁原くんの好きなところあるもん!』ということでよろしいか? 別の意味で失神しそうになってしまった。嬉しい。


「有紗―、俺にふーちゃんの好きなところとか聞いてもいいんだぞ」


「聞き飽きたからいいや」


「ひどい」


 なにその冷めた対応。俺だってふーちゃんの好きなところ語りたいんだが。足のつま先から頭の毛に至るまでふーちゃんのすばらしさを布教したい気持ちでいっぱいなんだが。


 ちらっと誠二や和斗に目を向けると視線を逸らされた。千田と雪花はそもそもこちらを見ていなかったので目が合わなかった。あちらはあちらで、保護者チームと盛り上がっているらしい。


 そして巡り巡って、俺の視線はふーちゃんに戻ってくる。彼女は俺と目が合うと、パチパチと瞬きをした。きょとんとした表情だ。


「じゃあふーちゃんに俺の愛を語ることにしよう」


「……毎日言ってくれてるよ?」


「それもそうか」


 もし予知夢の心配が消えて、実はふーちゃんも俺のことが好きという両想い状態だったとして、恋人になることができたなら――それはもういくらでも彼女に愛を伝えようじゃないか。


 でも最近はストレートに言ってないから、久しぶりに言っておこう。


「別にこれは告白とかじゃなくて、恋人になって欲しいって意味で言うわけじゃないけど、ふーちゃん、好きだぜ」


「……知ってるもん」


 ふーちゃんは生焼けのお肉を無駄に裏返しながら、俺と目を合わせることなく恥じらうように返事をした。耳は真っ赤っかである。


 あーもう可愛い! 好き!




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