第68話 それでも海は行く
『邁原くんが、私を心配してくれたの。憶えてないみたいだけど、中学のころに、競技場のところで会ってるんだよ? 膝をケガしてた私に、「痛いの痛いの飛んでけ~」ってしてくれたの』
電話口から聞こえてくるふーちゃんの声に、息を呑む。
「……覚えて、る」
顔までは、思い出せなかった。だけど自分がとったその行動自体は、記憶に残っている。
まさかあの少女がふーちゃんだったとは……てっきり年下だと思っていた。
だとしたら、ふーちゃんは高校入学前から俺のことを知っていて――それで彼女は俺に好意を抱いていた……?
いや、それはさすがに願望が混じりすぎているかもしれない。単純に、知っている人と友達になりたかったから声を掛けただけという説もある。
「ふーちゃん」
考えながら、間を持たせるために名前を呼ぶ。彼女はたぶんわけがわからないだろう。
いきなり電話がかかってきたと思ったら、俺からこんな質問をされているのだから。
「……予知夢のことなんだけどさ、アレ…………待つ必要はないんじゃないかな?」
考えて考えて考えた結果――俺は彼女にそんな言葉を伝えた。
『待つ必要がない?』
「そう、待たなくていいと思うんだ。時期がわからないなら、こっちから定めればいい」
彼女の祖母は、ふーちゃんに『一年以内に、あなたは私の元へ来るでしょう』という言葉を伝えた。そしてそれは必ずしも死ではないと俺は思うのだ。
そして伝えられた言葉は『私の元に来る』なのだ。死神が迎えに来るわけでもない、動くのはふーちゃんなのだ。
予知夢を回避するわけではなく――死なずに予知夢を叶えるために、動けばいいのだ。
「ふーちゃんのおばあちゃんに、こっちから会いに行こう。実家の仏壇でも、お墓でも、思い出の場所でも――思いつく限り、全ての場所に」
幸い、今は夏休み。もうすぐお盆の時期がやってくる。
亡くなった人と会うには、絶好の時期じゃなかろうか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ふーちゃんは毎年お盆の時期、祖父が暮らしている実家に帰るらしい。
現在祖父は、風斗さんの兄の家族と一緒に同居しているらしいが、お盆と正月は親戚が集まったりしているようなのだ。
海に行く日程も、その時期は避けるようにして組んでいた。
ちなみに、海に行くのはお盆前。
そして前々から計画していたお泊り計画は、お盆後の予定だった――のだけど、色々話し合った結果、俺もふーちゃんと一緒にお盆を過ごすことになったのだ。
さすがによそ者が親戚の集まりにお邪魔すのはダメだろう――と思ったけれど、風斗さんと香織さんに説得され『みんなに紹介しておきたいから』なんてちょっと嬉しいことも言われてしまえば、俺は頷くほかないわけで……。
ともかく、ふーちゃんの予知夢が解決する可能性がある場所へ俺も行けることになった。
何らかのアクションが起きてくれたらいいなと願いながら、気付けば日付はバーベキューの日になっていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「今日はよろしくお願いします」
「はーい、今日は思いっきり楽しんでね~」
俺がバッグミラー越しに頭を下げて挨拶すると、千田のお姉さん――菜月さんが朗らかに笑う。
てっきり海水浴場まではバスとかで移動するのかと思っていたけれど、千田のお母さんとお姉さんが車を出してくれることになったのだ。
お母さんのほうの車には、誠二、和斗、有紗の三名。
そしてお姉さんの車には、千田、雪花、ふーちゃん、俺の四名が乗車。
気付けば総勢九名の大所帯である。レジャーシートやパラソルも用意してくれたようだし、レンタル予定だったバーベキューのセットは、有紗が家の倉庫から引っ張り出してきてくれた。
「お姉ちゃん、安全運転でよろしくね。今日は友達も乗ってるんだから」
「言われなくてもわかってるわよ。爆弾を三つ運んでると思ってるわ」
「その言い方はよくないでしょ」
「あれ? ごめんごめん、それだけ慎重に~って意味だから、みんな悪い風に解釈しないでね?」
千田は助手席に乗っており、そんな会話をお姉さんと繰り広げている。
後部座席に座る俺と雪花とふーちゃんは、菜月さんに『気にしなくて大丈夫です』とそれぞれ伝えておいた。
「ふーちゃん、狭くない? 俺の膝の上に乗ってもいいよ」
俺は後部座席の真ん中に座っている。右隣にふーちゃん、左隣には雪花。両手に花状態ではあるが、あいにく俺はふーちゃんにしか興味がないので、雪花との接触面なんて全く気にしていない。
真ん中に居座ったのは、万が一事故を起こしたとき、一番危険なのがこの位置だからだ。
「の、乗らないよ!? 何言ってるのもう!」
「相変わらず仲がいいですね。そういえば、お二人はそろそろキスぐらいはしましたか?」
「し、してないもん! と、というか付き合ってないもん!」
ふーちゃんが顔を赤くして否定すると、運転席から「え? 付き合ってないの? 絶対嘘じゃん」という声が聞こえてきた。千田が説明をし始めたので、あちらはあちらに任せることにしよう。
「俺たちは友達以上恋人以上みたいなもんだもんな、ふーちゃん」
「……うん――うん? いま邁原くん、恋人以上って言わなかった?」
「気のせいじゃないかなぁ」
言ったけど、ふーちゃんの『うん』が嬉しかったので黙っておくことにする。
あそこの会話を切り取って脳内保存しておくことにしよう。
「言ってましたね。まぁ、恋人以上と言われても何も疑問に思いませんが」
「ち、ちち違うもん!」
雪花の言葉を、必死にふーちゃんが否定する。そしてついでとばかりに俺の膝をぺちん。短めのズボンをはいていたから、素肌にペチンだ。
試しに手のひらを上にしてスッとその場所に置いてみると、流れるような動作でふーちゃんが俺の手を握――ろうとしてペチン。
残念ながら手を繋ぐことはできなかったけど、非常に可愛い反応を見れたので俺は満足です。
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