第66話 水着選び




 はいあーんを数回やりつつ、二人で仲良くパフェを食べ終えた。


 もう少しゆっくりしてもよかったけど、なんだか急に店内に人がたくさん入ってきたので、大人しく退散することに。


 そしてとうとう、俺たちは目的の場所へとやってきた。


 そう、水着売り場である。

 左側は男物、右側は女物の売り場になっていて、当然俺はふーちゃんと一緒に水着売り場に行くから、女物が置かれている場所に向かうのだけど、


「キョロキョロしていたら変な人って思われるかもしれないから、ふーちゃんだけ見てるね」


 周囲には他の女性客もいる。だけど、ふーちゃんと手を繋いでやってきているからか、ちらっと見られることはあっても二度見はされなかった。


「う、うん……そうしたほうが他の人も安心かも……」


「可愛い」


「そ、それは言わなくていいの!」


 そんなじゃれ合いをしつつ、ふーちゃんに連れられるようにして店内を歩く。それっぽいものが並んでいるコーナーにたどり着いて、ふーちゃんが吟味を始めた。


 ハンガーにかかっているものを手に取って見比べたりしたあと、ちらっとこちらを見る。


「ちなみに邁原くんは、どういうのが好きなの? さ、参考にするから」


「……正直なことを言ってもいいですか?」


「い、いいけど」


 俺の問いに、ふーちゃんはちょっとビクッとしている。変なことを言ってきそうだなぁと思っているのだろうか。

 まぁ、間違ってないのかもしれない。


「ふーちゃんの水着姿は見たいんだけど、露出がすごいと他の人には見られたくないです」


 独占欲塊である。情けない……相手を束縛なんてしたくないのに、ふーちゃんの素肌の大部分が男どもの視線にさらされるとなると、気分がいいものではない。


 言うかどうか迷ったけれど、気持ちは言葉にしないと伝わらないのだ……!


 もしふーちゃんが『どっちでもいい』という状態だった場合、めちゃくちゃ後悔してしまうことになるだろう。


 ふーちゃんは俺の言葉を聞くと、クスリと笑った。


「ふふっ、元々恥ずかしいから、あんまり露出がすごい水着は着ないよ。だから安心して」


「……無理したりしてない? いや、もともとふーちゃんはそういうタイプだとは思うけど」


「大丈夫。じゃあちょっと選んでみるから、どの辺りがいいか教えてね」


 そう言って、ふーちゃんは「これぐらいかなぁ」と口にしつつ、水着を見始める。

 ……なんか今の会話、カップルっぽくない?


 というか俺に『水着買いに行くのついてきて』って話だったけれど、なんか俺の意見をめちゃくちゃ基準にしてくれてないか? え? やっぱりふーちゃん俺のこと好きでは?


 だけどそれを口にしても否定されるのが目に見えているので、心の中で大喜びするだけにとどめておいた。


「こんなのはどうかな……? おへそは見えちゃうけど」


 ふーちゃんが選んだのは、白と黒の水着だった。

 下は白のショートパンツみたいな感じで、上は胸元を覆うように白と黒のヒラヒラがついている。めちゃくちゃ可愛いが……、


「大丈夫だけど、なんか俺がふーちゃんの着たいものを制限しているみたいで罪悪感が……」


「ほ、ほんとに気にしなくていいんだよ? ね、どう思う?」


「めちゃくちゃ可愛いです」


「……じゃあこれは?」


「とても可愛いです」


「……これは?」


「最高に可愛いです」


「違いがわからないよ!?」


 だって全部可愛いんだもの。

 ふーちゃんが選んだものはどれも露出が控えめなものだったし、色合いやデザインの違いはあれど、どれも可愛いと思ってしまう。素材が良すぎるのだ。


「ねぇふーちゃん。俺もお金出すから全部買うという選択肢は……」


「だめ」


 だめだった。悲しいね。


 それからふーちゃんは、色々と俺に「どう思う?」と聞いてきてくれた。あまり役に立っていないような気もするけれど、それでもふーちゃんは毎回聞いてくれる。


「これにするね」


 そして、たぶん二十分ぐらい吟味してから、彼女に最初に俺に見せてくれた黒と白の水着を選んだ。


 決めた理由を聞いてみると、『邁原くんの反応が一番良かった』とのこと。もっと自分の意思を優先していいんだよと思ったけど、こうまで俺のことを気にかけてくれるのが嬉しすぎた。


 そして現在、彼女は最終確認のため、試着室の中に入っている。俺は近くで待機。もちろん、中を覗こうだなんてことは思っていない。俺の視線は周囲に変な輩がいないか見張ることなのだから。


「彼女さん、とっても可愛らしい方ですね。今ご試着なさっている水着、とてもよく似合うと思いますよ」


 そうしていると、三十代ぐらいの女性店員が俺の傍にやってきて声をかけてきた。

 おぉ、よくわかっているじゃないかこの店員さん。そう、ふーちゃんは可愛いのだ。


 そして残念ながらふーちゃんは彼女さんではないけど、ここで否定してもいいことはなさそうなので、そのまま乗り切ることにする。


「えぇ、彼女の可愛さは世界一ですからね。どの水着も似合っていて、俺はあまり力になれませんでした」


「似合うものが多いというのも困りますよね。どうですか、似合う彼女さんにもう一着プレゼントなど」


 ――くっ、セールストークだったか。しかし、ふーちゃんにプレゼントしたいという気持ちもたしかにある。こやつ、俺の心の隙を突いてきたというのか。


「ま、邁原くん、こ、これだけでいいから!」


 どの水着を買おうかな――と、早くも脳内で品定めをしていると、声が聞こえて、それからシャッとカーテンが開く音が聞こえてきた。


 振り向くと、そこには水着姿のふーちゃん。ハンガーにかかっている状態と身に着けている状態とでは、まったく印象が違って見える。


 お腹部分は脱いだ服で隠しているが、上半身の素肌面積は、俺がいままで見たことのないレベルだった。


 店員の女性も「素敵ですね、とてもよくお似合いですよ」と笑顔を浮かべている。


「すっっっっっっっっっっっっっっっごく似合ってる!」


「あ、ありがとうございます。邁原くんも、あ、ありがと」


 やっぱり君は天使に違いない。こんな子が海に行ったら、注目の的になるのは必須――俺も、気を引き締めないといけないな。



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