第64話 展望デッキにて
プリクラを撮り終え、次に向かうのは最上階の展望デッキ。
喫茶店に行くとなると食事になるし、クレープからは時間を空けたことが良いと思ったのが理由の一つ。
そしてもう一つの理由としては、プリクラで撮影したあとであれば、ある程度ツーショットへの抵抗が和らいでいると思ったからだ。
最上階につき、ふーちゃんと一緒にデッキに出る。クーラーの効いた場所にいたから、熱気をすごく感じた。
「いい天気だなぁ~、そりゃ人も多いか」
「あ、あっちのほうは空いてるみたいだよ?」
「じゃあそっちに行こうか」
「うん」
足元は木の板が張ってあり、外側を囲う柵はガラス製。植物を植えている場所もあったりして、とても雰囲気の良い場所だった。
こんないい場所があったんだなぁ……知らなかった。
ところどころにサイズの違う丸い椅子のようなものがあるが、そこでくつろいでいる人はあまりいない。まぁ今日は暑いし、女性は日焼けも気になったりするのだろう。
「ごめん、日焼けとか大丈夫?」
「う、うん。日焼け止め塗ってきたし、さっきお手洗いでもう一回塗ったから」
「そっかそっか。でも今日暑いし、パパっとやっちゃおう」
「うん」
相変わらず、俺たちは手を繋いだままだ。少し汗ばんできてしまっているけど、お互い気にしないようにしようということで合意してある。たまに、手を離して汗を拭きとったりはしているけども。
ふーちゃんと一緒に、壁際まで歩いて行く。
ガラス越しに見える街を見下ろして、ふーちゃんは「た、高いね」とびくびくした様子で口にした。
「怖かったら、俺に抱き着いててもいいんだよ」
「……それ、邁原くんが私に抱き着いて欲しいだけなんでしょ」
「すごいなふーちゃん。即座に正解を導き出すとは」
「もう慣れたもん」
ふふん、と鼻を鳴らして自慢げに言うふーちゃん。残念ながら、俺がふーちゃんのその自慢げな姿を見たいがために言ったことまでは見抜けなかった様子だ。それを含めて可愛い。
スマホのカメラを起動し、内カメに変更。
小指と人差し指の間にスマホを挟み込んで、親指でシャッターをきる構えをとる。
液晶に写るふーちゃんは、すぐ近くで俺を見上げていた。
「しゃ、写真、私にも送ってね?」
「もちろん。待ち受けにするんだよね?」
「ま、待ち受けにはしないもん。邁原くんもダメだからね? 他の人に見つかったら大変なんだから」
「あははっ、わかってるよ。毎日眺めるだけにしとく」
俺がそう言うと、彼女は半目になって不満げに「うー」とうなった。いやこれは不満というか、恥ずかしさを誤魔化しているのか?
「……そ、それはいいけど。私の顔、そんなに毎日見ても面白くないよ……?」
「すごく癒されるんだ。ふーちゃん見てると」
「そ、それならいいんだけど」
よし、許可もらったぞ! すでに体育祭の写真を毎日見てたけど、ふーちゃん公認になった! 嬉しい!
話が脱線してしまった、このカメラを構えた状態でする話じゃなかったな。
「はーい、もっと寄ってくださーい」
「こ、これぐらい?」
カメラを構えながら、ふーちゃんに声を掛ける。俺は少し顔を倒して、ふーちゃんの顔と近くなるようにしていたのだけど、そこにふーちゃんが顔を近づけてくる。
良い感じの距離になったところで、パシャパシャと二連続で撮った。
「どう?」
撮れた写真を一緒に確認して、聞いてみる。ふーちゃんからは「送ってね」と再度要求された。どうやらこれでオッケーらしい。
「じゃあもう一枚撮りまーす」
「うん! せっかくだし、もう少し撮ろ」
おや、ふーちゃんも写真に前向きだ。これは脈ありですね。間違いありません(願望)。
「ふーちゃん、枠に入ってないよ」
「邁原くんがズームしてるんだもん!」
「これはもう少し近づく必要がありそうだね」
「――っ、ば、ばか!」
俺は腰をかがめて、ふーちゃんが近づいてくるのを待つ。これは肩と肩をぎゅっとくっつけつつ、お互いに頭を倒さないと入らないような距離感だ。大丈夫、ふーちゃんならいけるよ!
カメラにはもはや背景など入る隙間はない。展望デッキで撮る必要がなくなるような写真なのだけど、ふーちゃんはチラチラと周りを見渡したあとに、すっと俺の傍に寄ってきた。
そして、プリクラで撮ったときと同じように、ほっぺをくっつけてきたのだ。
「こ、これでいいでしょ! は、早く撮って!」
「……どうしようふーちゃん」
ほっぺたをくっつけたまま、ふーちゃんに向けて話す。彼女もまた、その状態のまま「どうしたの?」と問いかけてきた。
「このボタンを押さなければ、ずっとこの幸せが続くんじゃない? って悪魔が語りかけてきてる」
「押さないと喫茶店行かないからね!」
「押します。すぐ押します」
ふーちゃんもなかなか強くなったなぁ……もしや、俺がそうしてしまったのでは?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます