第62話 いざプリクラ




 ふーちゃんに続き、俺もUFOキャッチャーに挑戦。

 上手くアームがタグに引っ掛かり、俺はなんなく色違いのくじらのぬいぐるみをゲットした。ふーちゃんがとったのは水色で、俺は青色だ。


 しかしどうしようか……頭の部分にはヒモがくっついているから、どこかにつけることも可能なんだけど、汚したくないという気持ちもあるんだよな。


「どこかにつける?」


 俺のゲットに「すごいすごい!」と、これ以上ないぐらいのリアクションをしてくれたふーちゃんに問いかける。彼女は俺のゲットしたくじらを先ほどとおなじように三百六十度眺めたのち、こちらを向いた。


「ほ、他の人に見られて勘違いされたらよくないし……あ、あとね、大事にしたいから……」


 そう言いながら、ふーちゃんは青色のものを俺の手に。そして自分でとった水色のくじらを大事そうに抱きかかえる。ちょっと仕草が幼いような気もするが、それがいい。とても可愛い。


「そっか。じゃあ俺も部屋に飾っておこうかな」


「べ、別に邁原くんとおそろいが嫌とかそういう訳じゃないんだよ? 本当だよ?」


「あははっ、俺のことを思ってくれてるんだよね? 大丈夫、俺もついさっき『汚したくないなぁ』って思っちゃったからさ」


 笑いながら言うと、彼女は嬉しそうに「良かった」と口にした。

 なんだかすでに満足してしまったような感じはするけれど、本番はこれからである。そう、プリクラだ。ふーちゃんと一緒に写真を撮るのだ。




「わ、私ピースぐらいしかわからないよ……?」


「大丈夫じゃないかな? たぶん色々機械のほうがポーズを言ってくると思うから。できそうなのだけやって、あとは適当でいいんじゃない?」


「う、うん!」


 ふーちゃんは初めてのことでドキドキしているようだ。


 プリクラ機の中に入ると、ふーちゃんはずっと視線をあちらこちらに向けて落ち着かない様子。俺は狭い空間にふーちゃんと二人きりというだけで幸せいっぱいである。


 俺の要求なので、プリクラ代は全部出すつもりだったのだけど、ふーちゃんが頑なに『半分ずつ』と主張したので、大人しく引き下がった。こんなところで争っても良いことはないからな。


 お金を入れて、コース選択。どういったメンバーで来ているかによって、ポーズの指定が変わってくるらしい。俺もこの辺りは有紗とかにまかせっきりだったからわからないし、そもそもどのプリクラ機で撮影したのかも覚えていない。


「じゃあカップルコースでいいかな?」


「か、カップルじゃないもん……」


「じゃあ友達以上恋人未満コースってのもあるよ?」


「そ、そんな細かいコース分けまであるんだね……そ、それならいいかも」


 俺も見た瞬間ビックリした。最近のプリクラ機は色々種類があるんだなぁ……。

 いったいどんなポーズをとらされるのかは知らないけど、俺とふーちゃんにはピッタリなんじゃなかろうか。


 諸々の設定を終えてから、いざ撮影。ふーちゃんは緊張しているのか、ガチガチに固まってしまっていた。


「リラックスリラックス。撮り直しもできるみたいだからさ」


「う、うん。邁原くんは落ち着いてるね……?」


「俺より緊張している人がそばにいるとね」


「む……じゃあ邁原くんも緊張して」


 なるほど。俺がふーちゃんよりも緊張することで、それを見たふーちゃんの緊張を和らげる作戦か。賢い。しかし、難しい。


「難しい要求だな……ちょっと待って、風斗さんと香織さんに『娘さんをください!』っていうシチュエーションを妄想してみるから」


「…………ばか」


 そう言って、ふーちゃんが俺の背をボフッと叩く。ボディタッチありがとうございます。いくらでも叩いてください。俺が喜びます。


 そんなじゃれ合いをしていると、機械から若い女性の音声が聞こえ始めた。


『ほっぺとほっぺをくっつけて、にっこり! あ、キスはまだダメだよ~』


 やたらとフレンドリーな機械だな。喋りかけてくる感じの音声だ。


 というかほっぺとほっぺをくっつけるって……いきなりかなりのハードルの高さなんですけど。これで恋人未満コースってマジですか? 俺、カップルコースと間違えてないよね?


「ど、どうすればいいの!?」


「俺はふーちゃんがよければ何も問題はない!」


 そう口にして、画面に指定された枠に自分の顔を当てはめる。画面内では、俺の後ろであわあわとしているふーちゃんが見えた。


 まぁさすがに、これは可哀想かな……。


「頬をくっつけるまでしなくてもいいからさ、近くでピースでもしようよ。さっきも言ったけど、別に指定通りにやる必要はないんだし」


 カメラ越しのふーちゃんと目を合わせながらそう言うと、彼女はすぐさま俺の横に顔を移動させてくる。そして、ちょうどそのタイミングで、音声がカウントダウンを始めた。


「と、特別なんだからね! く、くじらのお礼だから!」


 ふーちゃんはそう言いながら、むにっとふーちゃんが俺の頬に自らの頬をくっつけてきた。いや、とったのはふーちゃんなんですけどね。


 というかちょっと待ってくれふーちゃん。するならすると言ってくれないと、俺の心の準備ができていない。頭は真っ白、鼻の下は真っ赤。ふーちゃんの顔も真っ赤っかだ。


 そんな状態で、無情にもシャッターはきられた。


「ごめんふーちゃん! 鼻血出た! もう一回!」


「あぅ……が、頑張る……邁原くん、大丈夫なの?」


「へーきへーき! 世界一好きな子にほっぺをくっつけられたら誰でもこうなるんだ!」


「そ、そうなのかなぁ?」


 ふーちゃんはそう言いながら、自分のほっぺたを両手でむにむにと触っている。そして、ぱたぱたと熱さを逃がすようにパタパタと仰いでいた。


 一枚目にしてこの状況――俺たちははたして無事にこのプリクラを撮り終えることはできるのだろうか?

 



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