第54話 夏休みにデートしたい
期末試験の結果について。
一番点数が怪しいと思っていた有紗は、驚くべきことに、いつも平均あたりをうろちょろしている誠二を超えていた。どうやら彼氏である和斗を頼って、念入りに勉強していたらしい。
ちなみに、その原動力は海とバーベキューと言っていた。
ともあれ、無事に全員が赤点を取ることなく夏休みを迎えることができたわけだ。これで夏休み中の補講に行く必要はないし、帰宅部は特に、休みを満喫できるというものである。
休みに入る前に、全員の予定をすり合わせ、どの海水浴場に行くとかバーベキューの道具はどうするだとかを決めていった。
日数的にはだいたい十日後。
じゃあそれまではどうやって過ごすのかという話だが、――夏休み初日、俺は結局ふーちゃんの家に訪れていた。今回も菓子折りを持参しているのだが、これはうちの両親から新田家に向けてのものである。
いつもお世話になっております――という言葉と、念のための連絡先を添えて。
「ふーちゃんはいつも、宿題は最初に終わらせるタイプ?」
本日のイベントは、宿題の消化。
うちの高校はわりと宿題が多いからめんどくさいけれど、ふーちゃんと一緒ならそれも幸福へと変わる。夏休みの宿題、最高過ぎる。
「うん、そうだよ。邁原くんは?」
「俺は気まぐれなんだよなぁ……最初に終わらせるときもあるし、最終日付近でまとめてやることもあるかな」
「えへへ、そうなんだ」
どうでもよさそうな俺の情報を聞いて、ふーちゃんは楽しそうに笑う。こんなしょうもないことで笑ってくれるなんて、やはり女神か?
今日のふーちゃんは、いつもより少しだけラフな格好をしている。
ショートパンツに、袖の短いTシャツ。
ガードは堅いけど、肌色面積は大きいというかなんというか――ともかく俺の視線を吸い寄せる力がいつもより強めだ。紳士な俺は、ふーちゃんの顔に視線を固定させるために必死である。
「そういえば、夏休みにさ、俺とどこかに出かけるとかはアリ?」
今更感はあるけれど、実際問題、俺はふーちゃんと二人で休日に出かけたことは一度もないのだ。帰宅中にパン屋に行ったり、ふーちゃんの家に行ったり、あとはファミレスなんかも行ったりしたけど、ファミレスに関しては他にも友人たちがいたからな。
「こ、恋人以外でも、デートってするのかな……?」
ふーちゃんはそんな質問を投げかけてくる。ふむ、そうくるか。
俺の予想では『デートはダメだよ』とふーちゃんが言い、『友人同士で出かけるだけだから、別にデートじゃないよ』という会話でふーちゃんを説得しようと思っていたのだけど、デートで良いならデートのほうが俺は嬉しい。
「アリってことにしておこう」
ちらっとデートの意味をスマホで調べてみたら、『交際中』とか、『お互いに恋愛関係を望んでいる』とか書いてあったけど、気にしないことにする。
女子高生とかは、女子の友人同士で『デート』とか言っちゃってるらしいし、あまり深く考えないでいいと思うんだ、俺は。
「いちおう今のところ、水族館とかどうかなって思ってるんだけど」
ふーちゃんが俺に買ってくれたスリッパ、クジラの絵が付いているし。もしかしたら海の生き物とか好きなのかなと予想している。
「……水族館……行きたい」
「お金は俺が出すよ? 俺がふーちゃんと一緒に行きたくて誘ってるんだし」
もしかしてお金が心配なのかな、と思って聞いてみたけど、ふーちゃんは顔を横にぶんぶんと振る。
「お金は大丈夫だよ。――でも、本当に行ってもいいのかな?」
不安そうな声で、ふーちゃんは言った。
きっとまた、ふーちゃんは自分が死んだあとのことを考えてしまっているのだろう。俺と必要以上に親しくなるのを、避けるために。
だけど、ふーちゃんが死なないなら関係ないですよね。
「ふーちゃんが見た予知夢は、絶対に起こさせないよ。だから心配しないで、俺に大好きって言ってもいいんだよ」
おっと願望が乗ってしまった。失礼。
「い、言わないもん! で、でも……ありがとう邁原くん。私も、死にたくない――これまで以上に、いっぱい気を付ける――だから、邁原くんと一緒に、お出掛けしたい」
太ももの上でぎゅっと手を握りながら、ふーちゃんはそう言った。
聞きましたみなさん? この世界一可愛い天使、いま『邁原くんと一緒にお出掛けしたい』って言いましたよ? これは結構脈ありじゃないですか?
三月十五日の告白の成功確率が、七十パーセントぐらいある気がしてきたぞ。
いやでも、お泊りもあることを考えると――もう少し高い? 実は九十パーセントぐらいあったりする?
「いやいや、調子にのるな邁原勇進。お前は一度振られているんだぞ。いくらふーちゃんと付き合ってキスしたり抱きしめたりして一生幸せにラブラブいちゃいちゃしながら過ごしたいという願望が強すぎるからといって、その安易な考えはよろしくない」
「あ、あ、ま、邁原くん?」
思考中にふーちゃんの声を俺の耳が拾ったので、さわやかな笑顔で顔を向ける。彼女は両手をすり合わせながら、顔を真っ赤にしてうつむいていた。
「ん? どうしたのふーちゃん?」
「――いや、そ、その、なんでもないです……」
「もしかして、考えごとをしている俺がかっこよかったとか?」
「う、うん、それもある――じゃない! 違うから! いまのは違うから!」
適当に言ったら正解してしまった。必死に誤魔化しているようだが、ふーちゃん的に俺の顔面偏差値は合格ラインに到達しているらしい。おめでたすぎるので、帰りに赤飯でも買っちゃおうかなぁ!
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