第49話 夏の予定と期末試験




 体育祭を終え、そして期末試験を乗り越えたら、あと俺たちに待つのは夏休みという長期休暇である。


 休みとはいえ、少なからず部活動がある誠二や和斗も、俺たち帰宅部同様に楽しみにしているようだった。まぁそもそも、こいつらはサッカー大好きっ子だからな。


「休みも普通にあるけど、どこか行く?」


 昼休み、和斗が俺たち全員に向けて語りかけてくる。


 雪花や千田という仲良くなって間もない面々も、毎日一緒に食事をしていたら随分と仲良くなれたと思う。それこそ、休日に一緒に遊ぼうと誘えるぐらいには。


「やっぱり男子的には海とか行きたいんでしょ?」


 千田がニヤニヤと誠二を見ながら語りかけてくる。


 海かぁ。そりゃふーちゃんの水着姿を見たい気持ちは大いにあるけれど、どうしても『水難事故』という言葉が脳裏を駆け巡ってしまう。


 海となると、一瞬たりとも彼女から目を離すことができない――ん? いつも見てるから普段とあまり変わりはないな。案外大丈夫かもしれん。


 あとは、ふーちゃんや他の面々の意思次第だけど。


「わ、わたし行ってみたい! あとその……ば、バーベキューとかもしてみたい」


「よし、じゃあそうしよう」


 ふーちゃんが行きたいと言ったなら、それはもう確定事項なのである。たとえ他のメンバーが嫌がったとしても、俺と一緒に二人で楽しみましょうね。


 まぁ、ふーちゃんも俺と二人きりより、大人数でわいわいしたほうが楽しいだろうし、俺自身、二人きりとはまた違ったワクワク感があるので、できればこのメンバー全員で行きたいところ。


 雪花や千田の水着には全く興味はないが。

 そんなことを思いつつ、同じ昼食メンバーたちの反応をうかがってみる。


「去年海行ってないしな~、和斗も行くだろ? ってことは、有紗もくるな」


「私も大丈夫ですよ」


「バーべキューいいね! 新田さんナイスアイデア!」


 どうやら他の四人も良いらしい。そして誠二が言った通り、和斗が来るなら有紗も絶対に来るだろう。カップルだし、俺や誠二もいるし、最近はふーちゃんとも時々話したりしているからな。


 みんなが意見に賛成してくれたのが嬉しかったのか、ふーちゃんはちらっと俺に目を向けてから、嬉しそうに笑った。やっぱり君は天使かな?


「まぁその前に期末を乗り越えてからだな。赤点補修で一人だけ来れないとか笑えないぞ」


 そう、現在は期末試験三日前であり、夏休み目前ながらも最後の山場を残している状態なのだ。ふーちゃんや俺、誠二や和斗は問題ないし、千田も雪花も大丈夫だとは思うが……、


「私たちは平気だよ~、でも前に伊川くん、如月さんの成績が心配って言ってなかったっけ?」


 そう、問題児は和斗の彼女兼サッカー部のマネージャーである如月有紗。


 まぁしかし、問題児とは言ったけど、あくまで俺たちと比べたら成績が少し劣るというだけで、そこまで悪いわけではない。ただ、ごくまれに赤点を取る。


「バーベキューの話をしたら、張り切って勉強すると思うよ。絶対有紗は参加したいだろうからね」


「それもそうか、あいつこういうイベント好きだもんなぁ」


 和斗の言葉に、誠二も同意する。千田も「それなら大丈夫か」と安心した様子だった。


 千田が「新田さんは大丈夫そう?」と質問し、ふーちゃんが「お勉強は得意なほうだよ」と会話しているのをほっこり眺めつつ、誠二たちが夏休みの計画を練っているのにも耳を傾ける。


 俺としては、ふーちゃんともっとどこかにお出かけしたいところである。せっかくの長期休暇だし。


 水族館なんかいいかもしれないなぁ。あとは普通にショッピングとか、見たいものがあれば映画もアリだろうか。


 俺の気持ちとしてはもちろんだけど、おそらくふーちゃんとしても、色々やりたいのではないかと思う。なにしろ、彼女は今年自分が死んでしまう可能性があると思っているのだ。


 そんなことは起こさせない――そう思いつつも、毎日毎日、寝る前には『今日も無事に生き残ってくれた』と思ってしまう自分もいる。


 予知夢の期日まで残り約八カ月。


 なんだか死刑囚のパラドックスみたいだよなぁ。予測のできないことが起きるけど、期日は決まっているという点で。


 そんなことをぼんやりと考えていると、ふーちゃんが机の下で俺の制服の袖を摘まんで引っ張っていることに気付いた。


 ふーちゃんに目を向けると、彼女は少しだけ俺に体を傾け、顔を近づける。


「邁原くんは、お勉強大丈夫?」


「まぁ悪くはないぞ。トップにはなったことないけど、ふーちゃんを好きになってからは一桁順位をキープしてる」


「すごい……な、なんで私を好きになってからなの?」


「ふーちゃんに質問されたときかっこよく答えたいから」


 理由なんて本当にそれだけである。


 それまでも悪くはない順位だったが、トップ五十に入ったことは一度も無かった。ふーちゃんがもし『東〇大学に行ってる人ってかっこいい』なんて言ったら、俺はたぶん入ることができるだろう。


 現状、ふーちゃんの好みに『頭が良い』が入っているとの情報は入っていないので、ある程度でとどまっているが。


「じゃ、じゃあ、試験始まって、学校終わるのが早くなったら、二人で勉強……とか、だめ?」


「全然だめじゃないです」


 だめじゃないけど、鼻血的にはだめでした。可愛すぎんだろふーちゃぁあああああん!




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