第48話 質問タイム




 チアの衣装に着替えてくれたふーちゃんと撮影をこなしたあと、ダメ元でふーちゃんに体育祭で踊ったダンスをリクエストしてみたら、しぶしぶオッケーしてくれた。とはいっても、フルで踊ってもらったわけではなく、サビのワンフレーズのところだけ。


 それだけでも俺にとっては十分すぎるご褒美だった。


 どうやらふーちゃんは、待ち受けを禁止にしたことに対して罪悪感を覚えていたらしい。これぐらいなら――って感じだった。ありがとうございます。でも動画撮影は恥ずかしいという理由でNGだった。


 まぁそんなこんなで、ふーちゃんは再び私服に着替えている。


 いや、私服姿も超絶可愛いんだけどね? 水色とグレーの中間ぐらいの色合いの、膝丈のワンピースである。いつもはおでこが前髪で隠れているのだけど、今日は水色の花があしらわれたヘアピンで少しだけ前髪を分けていた。


 この姿を一生見ていても俺は大満足なのだけど、今日この場所に『チアの衣装をもう一度見る』という理由で訪れているし、チアの衣装で写真を撮りたいという気持ちも強かったので、しっかりと実践してもらったわけだ。


「私服でも一緒に写真撮りたいです」


 私服に着替え終わったふーちゃんにそう言うと、彼女はすんなりとオッケーを出してくれた。俺の要求が過激すぎて、少しずつ麻痺してしまっているのかもしれない。

 ごめんよふーちゃん。


 そんな風にして再び撮影会を行ったあとは、することが無くなった。


 別に俺は何をしなくても、ふーちゃんと同じ空間で同じ空気を吸えているだけで最高の気分なのだけど、ふーちゃんはそうでもないだろう。


 ふーちゃんがある程度俺に好感を持っていたとしても、俺の愛の強さには勝てるまい。


「ふーちゃんのこともっと知りたいからさ、色々聞いてもいい?」


 横並びにベッドに腰掛けた状態で、聞いてみる。ありがたいことに、ふーちゃん的にもこの場所がデフォルトになってしまっているらしい。


「へ、変なことはダメなんだからね?」


「変なこと――靴下はどっちから履く? とかも変な質問?」


「えっと……右――じゃなくて左、かな? でも、そんなこと気になるの?」


「気になる」


 頷きながら、正直に答える。さすがに『体はどこから洗うの?』とかは気持ち悪いだろうから自重した。あと『歯磨きはどこから磨く?』も気持ち悪そうだからやめた。


 心のメモ帳に『ふーちゃんは左足から靴下を履く』とメモしていると、逆にふーちゃんからも質問が飛んできた。


「す、好きな食べ物とかはある?」


 ふーちゃんが俺に興味を持ってくれている――! ように感じる!

 社交辞令で聞いてくれただけかもしれないが、めちゃくちゃ嬉しい!


「せっかくだけど、好きなものってあまりないんだよなぁ。あ、でも苦手なものは酸っぱいものとか」


「酸っぱい……レモンとか?」


「レモンはセーフ。梅干しとかが苦手なんだよ」


 なんかこう……きゅっとなる感じが苦手。こう、きゅっとなる感じが。

 眉を寄せながらそう言うと、ふーちゃんは口元に手を当てて笑う。


「ふふっ、邁原くんにも苦手なものがあるんだね」


「あ、今の表情めちゃくちゃ可愛いです。天使かと思った」


「い、言わなくていいから! は、恥ずかしいよ……」


「あははっ、ごめんごめん。ふーちゃんは『みんなのパン』のカレーパンが好きなんだよな? あとはいちご大福とみたらし団子――嫌いなものは納豆だっけ?」


 俺の知りえている情報をスラスラと口にすると、彼女はぽかんとした表情になる。

 いや、そんなに驚くことでもないだろうに。全部、盗み聞きした情報じゃなくてちゃんとふーちゃんの口から聞いた情報だぞ。


「わ、私そんなに話してたっけ……?」


「うん、話してた」


 昼休みに一緒にご飯を食べているとき、幸せホクホクといった様子で話していたからなぁ。たぶん、好きな食べ物なんだろうと思っていた。納豆に関しては、普通に苦手と言っていたけど。


 まぁふーちゃんが言った言葉なら一言一句俺の脳内メモリに保管してある。

 残念なことに、ふーちゃんを好きになる以前の言葉は覚えていないが。


 ふーちゃんはほんのり赤面しながら、「私、他に邁原くんに何か言ってる?」と聞いてきた。その質問に、俺は首を横に振る。


「こういう質問は気持ち悪いかなって思って、いままであまりしてこなかったんだよ。でも、ふーちゃん案外平気そうだし……」


 さっき靴下のこと聞いても、別に嫌がるそぶりはなかったもんな。不審には思われた気がするけど。


「へ、平気じゃないよ! ちょっとは恥ずかしいんだからね! 気持ち悪いとか、嫌だとかは全然おもわないけど……」


「何それ可愛い。いっぱい聞いちゃおう」


「もー……やっぱり邁原くんいじわるだ」


 そう言いながら、ふーちゃんが俺の太ももをペチンと叩く。俺もふーちゃんの太ももに触れたくなってしまったが、セクハラ認定されたら嫌なので我慢した。


「そ、そんなこと言うなら――わ、私もいっぱい聞いちゃうんだからね!」


 仕返しとばかりに、ふーちゃんがいつもより声を大きくして宣言する。

 俺に対抗しているようだが、俺とふーちゃんでは立場が違いすぎるのだよ。


「なんでも聞いてくれ。そのすべてに答えてみせよう」


「……ずるい」


 拗ねるふーちゃん、最高に可愛いです!



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