第46話 待ち受けにしたい




 好感度について考えてみた。


 ゼロから百までの数値があり、五十を平均値とする。数字が少なくなるほど好感度が下がっていき、大きくなれば好感度が上がるといった感じだ。


 俺にとっては、あまりよく知らないクラスメイトたちは五十、誠二や和斗、それからサッカー部のマネージャー兼和斗の彼女である有紗たちは九十から百の間といった感じだろうか。もちろん、恋愛云々ではなく、友人としてではあるが。


 ――で、なぜこんなことを考えていたのかというと、現状、ふーちゃんは俺に対してどれほどの好感度を持ち合わせているのだろうか――そう思ったからだ。


 第三者視点に立って俺とふーちゃんの関係を見たとすれば、わりと高めなんじゃないかと思う。もし体育祭で、お姫様抱っこしている男女を見たら、俺なら『あいつら付き合ってんじゃね?』と思ってしまいそうだし。


 だけど、ふーちゃんの現状――『予知夢によって死を予期しており、毎日後悔しないよう全力で生きている。俺はその協力者』ということを知っていると、また違ったように見えてきてしまう。


 まぁそれを含めたとしても、好感度、八十ぐらい超えてくれていたら嬉しいなと思いました。

 俺のふーちゃんに対する好感度? 九九九九不可思議ぐらいですね。




「ふーちゃん、待ち受けにするならどれがいいと思う?」


「ま、待ち受け!? だ、だめだよ……そ、そういうのは、恋人同士がするものだもん」


「あははっ、ごめんごめん。冗談だよ」


 全然冗談じゃありませんでした。あわよくばと願っておりました。すみません。

 体育祭が終わって、学校からの帰り道。教室や校庭、帰宅しながらふーちゃんと写真を撮って、二人で公園に座って写真を眺めているところだ。


 残念ながら、待ち受けは断られてしまった。


 まぁ、そりゃそうだよなぁ。

 そもそもふーちゃんは、まだ自分が死ぬ可能性を視野に入れている状態だ。


 だから告白されたとしても恋人を作らないと言っていたし、毎日を丁寧に頑張って過ごしているし、体育祭の実行委員なんて慣れないこともやった。


 男女混合リレーや借り物競争なんかも、一年の時の彼女では考えられないことだし。


 まぁともかく、彼女は『自分が死んでしまったときどうなるか』を考えているのだと思う。当然、俺はそんな未来を認めないし阻止してみせるが。


 体育祭の時も、ふーちゃん周りや来場者には気を配り続けていたからなぁ。


「もー……あっ、べ、別に怒ってるわけじゃないんだよ?」


 拗ねたように言ったあと、彼女は慌てた様子で弁明していた。


「それはよかった。まぁふーちゃんの表情見ていたら、なんとなくわかるよ」


「ほ、ほんと? じゃあ今私が何を考えてるかわかる?」


 そう言って、彼女は体を少し横に向けて、俺を正面から見るような態勢になる。そして、じっと俺の目を見てきた。可愛すぎる――じゃなくて、何を考えてるか当てるんだよな。


 俺のふーちゃんアイの本領を発揮しようじゃないか……!

 えーっと、なになに?


「ふむ。なるほど……『私も待ち受けにしたいけど我慢するんだから、邁原くんも我慢しなきゃダメ』って感情が見えるな」


 自分で言っておきながら、本当にそうなのか? と疑問に思う。だってそれじゃあまるで、ふーちゃんも俺のことを好きみたいじゃないか。え? やっぱりその可能性、信じちゃってもいいんですか?


 俺の目で読み取った情報をふーちゃんに伝えると、彼女は目をぱちぱちと瞬きした。口はぽかんと開けたままでとても可愛い。少しして、再起動した。


「――んなっ、ち、ち違うよ……? 違うんだもん。カレーパンまた食べたいなって思ってただけだもん」


 どうやらふーちゃんは俺の予想とは全く違うことを考えていたらしい。俺の節穴アイ、そろそろ引退させたほうがいいかもしれない。


「カレーパンだったかぁ、週明け、また買い食いする?」


「――す、する! したいです!」


 本当にあの店のカレーパンが好きなんだなぁ。もしくは、買い食いが楽しいのか。

 俺は今度別のおすすめを食べてみようかなぁ。


 お母さんにお夕飯少なくしてって言っておかないと――そう呟きながら、スマホをポチポチと操作するふーちゃん。もしかしてもう月曜日のことをお義母さんに連絡しているのだろうか。


 なんだかそこまで楽しみしてくれていると、俺まで嬉しくなるな。


 メールを打ち終えたのか、スマホをポケットにしまってから息を吐くふーちゃん。まだ日の落ちていない空を見上げてから、俺のほうを見た。


 何か言おうと口を開きかけて、また空を見てから、もう一度俺を見た。


「どうしたの?」


 自分では言い出しにくそうだったので、こちらから聞いてみる。


 もしかしたら自分のタイミングで話したかったのかもしれないが、ふーちゃんは聞いたほうがすんなり話してくれるイメージがあるからなぁ。


「……あ、あのね、待ち受けのことなんだけど」


「うん」


 恋人同士がするようなものだから、NGであると伺いました。だから私、我慢します。でも毎晩眺めるぐらいはいいよね?


「…………三月十五日になったら、私もする」


 そう言ったふーちゃんは、ぷいっと俺に背を向けるように体の向きを変えた。耳は真っ赤で、明らかに恥ずかしがっているように見える。


 その日は俺の告白予定日なんですが……もしやふーちゃん、オーケーしてくれるつもりなんですか!?


 


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