第45話 どうみても(バ)カップル




「ダメ」


「いやでも……唾つけとけば治るレベルだし」


「ダメ」


「全然痛くもないよ?」


「絶対ダメ」


 男女混合リレーが終わったあと、普通にクラスの待機列に戻ろうとしていたら、ふーちゃんに『保健室に行くよ』と詰められていた。はたしてここまでふーちゃんが人に対して強気になったことがあっただろうか。


 少なくとも、俺は初めて見た。


「ばい菌とか入ってるかもしれないんだから、ちゃんと消毒しないとダメ。保健室行ってくれないと――わ、私、怒るんだからね!」


 そう言って、ふーちゃんは腰に手を当てながら眉間にしわを寄せる。


 いまはまだ『微怒り』ぐらいだけど、絶対怒ったふーちゃん可愛いじゃん。ぜひとも見てみたい――と思ってしまったけれど、ふーちゃん的にはNGだろうから、大人しく彼女と一緒に保健室に向かうことにした。変なこと考えてすみません。


 そこで、保健室の先生に消毒してもらって、絆創膏やらガーゼやらで怪我をした部分を保護してもらう。怪我をした瞬間よりも消毒のほうが痛かった。


 治療が終わってから保健室の外に出て、待っていてくれたふーちゃんに「お待たせしました」と頭を下げる。


「……頑張るのはいいけど、危ないのはダメなんだからね?」


 依然としてご機嫌斜めなふーちゃんは、唇をちょこっとだけ尖らせている。可愛い。


「反省しております」


「むー……本当に反省してる?」


 やばい。あんまり反省していないのがバレてそうだ。


 ふーちゃんも俺の心を読み取る技術とか会得しちゃったりしているのだろうか? 邁原アイみたいな。だとしたら嬉しいような気付いてほしくないような……複雑だなぁ。


「そういえばふーちゃんの声援聞こえてたよ。ありがとう」


「露骨に話を逸らしてる――って、よく聞こえたね? 他の人の声にかき消されてると思ってた」


「そりゃ世界一好きな人の声だからね」


 ライブ会場だったとしても、ばっちりと聞き取る自信がありますよ。


「そ、そんなこと言っても、ちゃんと反省しないと怒るんだからね!」


 話を逸らすのは失敗した。さすがふーちゃんである。

 まぁ、好きな人がこれだけ俺のことを心配してくれていると思うと、嬉しい以外のなにものでもないよなぁ。


 だけど喜ぶだけじゃなくて、逆の立場だったら俺もふーちゃんに『危ないことはダメ』と言いそうだし……重く受け止めることにしよう。


「もう危ないことはしない、約束するよ」


「う、うん……邁原くんが痛いと、私の心も痛いんだよ?」


 本当に、ふーちゃんは可愛いし優しいし、天使みたいだなぁ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ふーちゃんと少しだけ体育祭の感想などを言いながらのんびりグラウンドに向かっていたのだけど、いつの間にかすべての種目が終わっていた。


 まぁ俺の出場する種目はすべて終わっていたからあとは応援だけだったのだけど、クラスのみんなは最後までしっかりと頑張ってくれていたようだ。


 学年対抗リレーや部活動別のリレーとかもあったけど、俺とふーちゃんはその二種目を見逃した。ちなみに、その両方に誠二は出場していたらしい。かっこいいところを見せられただろうし、本当に彼女とかできちゃうんじゃないだろうか。


 そんなわけで、優勝は白虎組。


 そして、クラスの総合優勝は、我々二年三組がもぎ取った。

 実行委員としての仕事も、あとは記録とかを整理するだけで、もうあと一回放課後に集まるだけで終わるような感じだ。


 給料が出るわけでもないし、成績に加点されるわけでもない、完全なボランティアみたいな仕事だったけれど、まぁやってよかったのかなと思う。


 ふーちゃんが『一度ぐらいやってみたい』と言っていた意味が、今になってわかった気がした。



 まぁそれはいいとして、


「ふーちゃん、教室に戻ったら写真撮ろう写真!」


 グラウンドでみんなでワイワイと優勝を喜び、白虎組全員――それからクラス全員で写真を撮ったあと、俺はふーちゃんに声を掛けた。


 するとふーちゃんは、スッと目線を足元にずらして、手をすり合わせる。


「わ、私も、邁原くんにお願いしようと思ってたの……一緒に撮ってもいい?」


 なにこの可愛い子。そうです、俺が世界で一番好きな子です。


「もちろん! 百枚ぐらい撮ろう!」


「ひゃ、百枚はちょっと多いんじゃないかな」


「ちょっと多いか……じゃあ何枚ぐらいならセーフ?」


「じ、十枚ぐらいとか?」


 じゃあ間をとって五十枚――と言ったら、ふーちゃんに二十枚と言われてしまった。


 近くで誠二が「選択肢、全部多くね?」なんてことを言っていたらしいが、俺のふーちゃんイヤーはその音を拾わなかったので、その事実を知るのは週明けの月曜日のことだった。





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