第44話 男女混合リレー 決着
ピストルの合図とともに、誠二が走り出した。
各クラス、スタートダッシュには成功したようで、最初のほうはそこまで差が出ているわけではなかった――が、ぐんぐんと集団から抜け出してくる生徒が一人、まぁ、予想通り誠二が速い。
足が速くてモテるのは小学生まで――みたいなことを誰かに聞いたことがあるけれど、今の誠二の姿を見れば、『普通に高校生でもかっこよくないか?』と思ってしまう。
頑張っているようだし、これを期に年上彼女ができることを祈ってやろう。
誠二はコーナーでインコースを奪取して、さらに他クラスとの差を広げていき、そのまま千田へとバトンパス。千田は陸上部とだけあって、バトンの受け取りが非常にうまかった。
「さすがの二人だな……身体三つ分ぐらいはリードしてる」
ランナーを眺めながら呟くと、隣の高田が「やっぱり月村速いわ」と肩を竦める。同意。
バトンを受け取った千田は、綺麗なフォームで差を更に広げていく。まぁ、第二走者に男子を配置しているクラスからは少し詰められているような気もするけど、そういうクラスは一人目に女子が走っていたので、そもそも距離がけっこう開いている。
「頑張れふーちゃん……!」
そしていよいよ、ふーちゃんへとバトンが渡った。とりあえず、バトンを落とさずに綺麗に受け取れてほっとした。あとは転ばないようにしっかりと走ってくれさえすれば、あとは俺がなんとかしてみせよう。
しかし……やはりトップ争いをしているリレー参加者に比べると、ふーちゃんのスピードは劣る。可愛さも加点していいならトップオブトップなのだけど、純粋な足の速さを競っている以上、運動をあまりしてこなかった彼女には少し荷が重い。
二位との差は三メートル以上離れていたのだけど、ぐんぐん詰められて――コーナーを曲がり切ったあと、直線で追い抜かれてしまった。
しかし、ふーちゃんの顔はくじけていない。
最後まで全力で走ってやる――そんな意思が瞳に宿っているように見えた。そう――それがわかるぐらいには、彼女は俺のすぐ近くまで走ってきている。
バトンの受け渡しもミスせず、足を絡ませることもなく、上位の位置を保ったまま――俺の元へとやってきたのだ。最高だよふーちゃん!
「お先」
俺にバトンが渡るよりも前に、高田が女子からバトンを受け取って走り始める。
おー、お先に行ってろ行ってろ――と言っても、そのコンマ五秒後には俺もふーちゃんからバトンを受け取っているのだけど。
「――お願いっ!」
「任せとけ」
そんな短い会話を瞬時にこなし、走り出す。
俺はサッカー部をやめてから、運動しなくなった時期もたしかにあった。
しかし、ふーちゃんに出会ってからは、『運動できる男はモテる』という言葉を信じて、色々なことに取り組んできた。
たしかに『足が速いほうがモテるというのは小学生まで』という情報を、俺は割と信じている。だがしかし、『足が速くてモテなくなることはない』という逆説的なことも、俺は考えていた。
まぁ何が言いたいのかと言うと、今の俺は現役の時と大差ないレベルで運動しているということだ。
前を走る高田の背中が、少しずつ近くなってくる。
コーナーで後ろに張り付き、直線で一気に抜かしてやろう!
「――っち」
速いなぁコイツ……! たしかバスケ部だったよな? さすがの瞬発力だ。
ラストの直線に入り、ほんの少しずつ高田との距離を縮めていく。だがしかし、あと残り五十メートルもあれば抜かせそうなのに……足りない。あと一歩が足りない。
「邁原くん! 頑張れぇええええええ!」
そんな時、俺のふーちゃんイヤーが、激しい歓声の中からしっかりとひとつの声を拾ってくれた。アドレナリン、ドバドバである。
「うぉおおおおおお! ふーちゃぁああああああん!」
声を出すことでスピードが上がるのかは知らないけど、とりあえず叫んだ。一瞬高田がビクッとして俺のほうを向いた。ごめん、悪気はなかったんです。
しかし、なにも高田は後ろを振り返ったわけではない。俺はすでに、彼のすぐ横を走っているのだ。だから余計にビックリしたよね、ほんとごめん。
まぁそんな不幸な事故はいいとして。
ゴールは間近、俺と高田の差はほんの十センチ程度である。
ならば最後にやることは一つだけ――!
「そぉっ!」
俺の謎の掛け声に「いぃっ!?」とビビる高田。
いや、たぶん声にビビったんじゃないな。きっと、ついさきほどまで隣を走っていた俺の身体が、地面と平行になっていることに驚いたのだろう。俺なら『スーパー〇ンかよ』ってツッコんでたところだ。
結果として俺は、誰よりも早くゴールテープに手を伸ばし、つかみ取ることができた。
もちろん、胸が通り過ぎたのも高田より先だ。ふーちゃんから繋いだバトンは、しっかりと一着でゴールさせた。
代償として、体操服は砂まみれ。膝もすりむいたし肘もすりむいたし、多少の出血もしてしまったが、普段の鼻血と比べたらほんのちょびっとだけである。
いちおう受け身を取ってゴロゴロと転がりつつ、レースの邪魔にならないように端に移動。立ち上がって砂埃を払っていると、高田がバトンで自分の肩をポンポンと叩きながら、呆れたような顔で俺を見ていることに気付く。
「わりと本気だったつもりなんだけど、邁原見てると俺が本当に本気だったのか怪しいわ」
まぁ、人によって本気のレベルも様々だからな。
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