最後(トリ)
シンシア
からn番目の恋
夜間。宿題を終えて、お風呂を済ませた。私は自室のベッドの上でゴロゴロとしながらスマホを弄っていた。
大して興味のない短い動画の連続。
それを下から上へスワイプするだけの時間。
退屈な時間を終わらせるように、着信音が部屋に鳴り響いた。
「もしもし」
「──ご、めんね。ど、おして、も聞いで、ほしぐでぇ」
「君はいつもいきなりだね。どうしてそんなに泣いているのさ」
君からの電話であった。咽び泣く声。鼻を凄い勢いで啜る音と共に助けを求められた。本当はどうして泣いているのかを聞く必要はなかった。
君の恋の終わりは幾度も見てきた。またその時が来ただけだ。
「フラれ、ぢゃっ、たのぉ! わだしぃ、なにが悪いこと、しちゃっ、だの、かなぁ!」
「少し落ち着きなって。フラれた理由なんて考えるだけ無駄だよ。そいつと合わなかったってだけだよ」
携帯から聞こえてくる君の声はより震えだした。
「今度の、──は上手く、いってた、んだよぉ。それなのに、きゅ……きゅ急に別れよう、って。それで──」
「もーう。引きずっても仕方ないでしょ。次に切り替えなって」
「そん、なぁ簡単に、言われてもぉ……」
「早く泣き止んで冷静になれ! もう電話切るからな!」
私は君との電話を終了し、溜息をつく。君は強い子だ。私はよく知っている。コンクリートの間からでも綺麗な黄色の花を咲かせ、やがては空へとふわふわの綿毛を飛ばすような子だ。
きっと泣き顔すらも可愛らしいのであろう。私はその顔を見たことがない。
君は私のことを想って涙を流してはくれない。いつもその涙は誰かの為のものなのだ。
10分程経った時、再び携帯から着信音が聞こえた。
「もし……」
「さっきは! ごめんね。ほら、泣き止んだから話を聞いてほしいの」
「──はいはい、わかったから」
私のもしもしぐらい聞いてほしいと素直に言えればよかった。
一度強く突っぱねても再度かかってくると、分かっていて私もやっているのだからお互い重症だ。それから小一時間ぐらい、君が愚痴のような何かを言い、私がそれに相槌を打つとという時間が続いた。君からの電話でなければとっくに切りあげている。
「ねぇ、あのね。──に恋人はいないの?」
「え! 急にどうしたのさ」
「いつも私のことを聞いてもらってばっかりで、一番の親友の恋愛事情を全く知らないなぁと思って」
「親友ね……」
「うん? 何か今言った?」
突然自分のことに話題が変わった驚きと、悪意0の君の言葉に対して、思わず本音が漏れてしまった。
このドキドキが単なる驚きからくるものではないと私だけは分かっていた。
「ううん、何でもないよ。恋人なんていないよ」
「気になる人とか好きな人は?」
「それはいるよ」
「えー、どんな人?」
「泣き虫で人一倍傷つきやすいくせに、それでも幸せになろうと頑張る人。かな」
冷静に分析した口とは裏腹に胸の鼓動が動揺を始めた。
本当のことなど言わなくてもよかった。だけど、君がくだらない誰かの話をこれ以上口にするよりも、自分のことを考えて欲しいと愚かにも思ってしまった。
「ふふふ、なにそれ。そんな健気な子がいいんだ。意外だね」
「人の好きを笑うなよ!」
「ごめんごめん。それで気持ちは伝えないの?」
「君みたいに何度も傷つく勇気がないからさ。私はその子の最後から二番目の恋が終わるのを待っているんだ」
「最後から二番目ねぇ、私の最後の恋っていつくるのかな」
悲しそうに笑い出した君の声が聞こえてくる。ああ、機械に変換された音波じゃなかったらもっと嬉しいのに。こんな時でさえ君の声を一番最初に聞いているのは私では無いのだ。
これは単なる気まぐれだ。
私の気もしらず恋人がいるかなど聞いた君が悪いのだ。
「最後の恋にしてあげようか」
「えー! 冗談でしょ。あーあ、本当に付き合えたらなぁ」
「女だからダメ?」
「それは違うよ、貴方はね私の親友なの。親友とは付き合えないよ。当たり前でしょ」
「そうだね」
君が性別を理由にして私とは付き合えないなんて言う人ではないことは分かっている。男はいつも最初になりたがり、女は最後になりたがる。この言葉が嫌いだった。君は誰かの最後になれるまであと何度傷つけばよいのだろうか。最後にする気も無いくせに君のことを誑かそうだなんて間違っている。
誰かになるぐらいだったら、君みたいになりたい。
私は大切なものを一つ手放すという覚悟を決める。
「あのさぁ、君とは今日限りで絶交してもいいかな? もう君がフラれる度にこんな会話をするのにも嫌気がさしてきたし、良い頃合いだよね」
「ちょ──」
電話を切った。
今度はすぐに着信音が鳴る。
「もしもし」
「もしもし、あの、私──って言います。こちら──さんの携帯であっていますか」
「そうですよ」
「あのー、とりあえずお茶からいかがですか」
最後(トリ) シンシア @syndy_ataru
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