第七話:気になる存在
「ただいまー! ダーリン。見ててくれた?」
周囲の参加者の視線など気にも留めず、神也達の下に戻ってきた笑顔のメリーを、同じく笑顔で出迎える。
「うん。凄かったね」
「でしょでしょー? これで合格間違いなしだよね?」
「どうかのう?
「ちゃーんとお題は熟したもん。大丈夫に決まってるじゃん。おばさんは気にし過ぎ」
「ふん。若作りに言われたくないわ」
相変わらず皮肉を言い合うメリーと玉藻に、神也達は呆れながらも笑顔を見せる。
その裏では、隠密系の試験が粛々と進められていったのだが。メリーが
『これにて隠密系の試験は終了となります。参加者は闘技場に残り他の者の試験を見守っていただいても、先に帰っていただいても構いません。結果は後日、各冒険者ギルド経由で通達致します。皆様、お疲れ様でした』
システィの仕切りにより、試験を終えた最初の参加者達は、各々安堵や不安を表情に見せながら、闘技場の中央から去って行く。
そして闘技場の中央にいるのが彼女とゼルディアだけになった所で、システィは次の試験の進行を始めた。
『では、次の試験は攻撃魔術系となります。対象となる皆様は、前にお進みください』
彼女の指示に、おっという顔をした玉藻が
「次は
「うん。お兄ちゃん、行ってくるね」
「うん。
「なーに。メリーとは違うのでな。しっかり品行方正な態度で挑むでのう。安心せい」
「いちいち一言多いわよ! さっさと行きなさいって!」
不貞腐れたメリーの姿に満足したのか。鼻で笑った玉藻が、いつもと変わらぬ無表情のまま先に歩き出した
「ヒンコウホウセイとは、どういう意味でございますか?」
聞いたことのない言葉に首を傾げたセリーヌに、六花が苦笑して見せる。
「あたし達の国の言葉で、『正しい行いをしている』って意味さ」
「正しい行い、にございますか」
「うむ。我等からすれば、玉藻とメリーは最もほど遠い存在だと思うが」
「鴉丸ー。そういう事言う人も、人のこと言えないと思うんですけど。ね? ダーリン?」
「まあまあ。今は二人を応援しよう?」
納得感のあるメリーの言葉に苦笑しながらも、そこで敢えて話を遮った神也は玉藻達に目を向ける。
流石にあやかし達としての実力だけでなく、ここ一ヶ月の鍛錬の成果を知っているからこそ、彼女達が合格しないことはないと思ってはいるものの、それでも心配するのが彼というもの。
──二人が無事、試験を終えますように。
ぎゅっと両手を握りながら、彼はそう心の中で願っていた。
先程より多い、五十名ほどの参加者達。
魔術師や精霊術師といった術着を纏った面々が出揃った所で、システィはコホンと咳払いする。
『皆様の試験は、威力と精度、ふたつを確認する試験を行います。まずは先程使用したあちらの的全てに、皆様の得意な術で攻撃してください。但し、術を打ってよいのは的の数。つまり五発までとさせていただきます』
試験の題目としては非常にシンプル。
だが、先程と比べても危険もなく、実力を見るのにも理にかなった試験内容に、ほっとする参加者達。
──何じゃ。簡単じゃのう……。
唯一、玉藻は内心つまらない試験だと思ってはいたが、ここでメリーのように目立つようでは、品行方正を口にした意味がない。
だからこそ、敢えて無言を貫き様子を見ることにした。
『では、希望者から順に始めていただきます。我こそはという方は、挙手願います』
何人かが挙手をすると、その中からシスティが順番を決め、試験が始まった。
一人、また一人と順番に最初の試験を熟し、的に向け様々な魔法が飛び交った。
火球に風の斬撃。水疱に光の矢。
それぞれが様々な術を駆使し、的に術を当てていくどこか異世界らしい光景を、玉藻と
「玉藻は何時手を挙げるの?」
「うーむ。そうじゃのう……」
ふと、
「慌てても仕方あるまい。楽しみは最後まで取っておいてもよいじゃろ」
「そっか。じゃあ、私は玉藻の後にするね」
「うむ。それまでは皆の術、眺め愉しむとしようぞ」
どこかのんびりとした二人の会話に、緊迫感はない。
そんな二人を、ゼルディアは遠間からじっと眺めている。
──あのメリーとかいう女の知り合い……。ということは、こいつらも何かしらの実力を持っているのか?
今のところ、彼の目に映るのは、どこか妖艶さを感じる女と幼女。
玉藻はともかく、
実際、過去の試験でもやはり十五、六歳くらいが最年少。実際その年頃にならなければ、身体能力も魔力の扱いも難しい。
──まあ、別にただの冒険者希望者。試験さえ滞りなく進むんなら、それ以上の干渉は必要ないんだが……。
どうにも気になってしまい、他の参加者の試験そっちのけで、彼女達から目を離せずにいたゼルディア。
と、その視線に気づいた玉藻が、彼にゆっくりと顔を向けると、意味深な笑みを浮かべてくる。
瞬間、背中にゾクリと何かを感じ、彼の表情が固まる。
そんな反応に、今度は愉しげな顔をした玉藻。ゼルディアはそんな彼女の妖しげな雰囲気に、既に魅せられてしまったのかもしれない。
そして、彼の感じていた予感は、間違ってはいなかった。
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