第四話:試験の始まり
列は順調に流れ、闘技場の入り口で受付内容を確認された神也達は、そのまま闘技場の施設内に入ると、入場口を通り戦いの舞台へ足を踏み入れた。
中には百人をゆうに超える参加者がおり、中々の熱気。神也達の後ろからも続々と入場しており、最終的に数百人を超えそうな勢いだ。
円形に外周を覆う観客席と、中央の広い戦場。
冒険者ライセンスの試験故に、大量の観客がいるわけではない。
ただ、王族や貴族が観戦するであろう、一段高い観覧席には、何人かの人物が見える。
片足を組み、巨大な大剣を抱え座る、褐色の肌と白い髪が特徴的な中年の騎士に、どこかふてぶてしさを感じる茶髪をオールバックに整えた貴族風の中年。
気品と清楚さを感じる、司祭らしいローブを身に纏った眼鏡をした青髪の女性に、真逆の黒いマントを羽織った、目付きの鋭い黒髪の女。
「あれが
周囲の参加者から感嘆の声が漏れるが、それもそのはず。
彼等の内の三人は、国王の側近であり親衛隊でもある、
宮廷大魔術師であり、王国魔術団団長のゾルダーク。
宮廷大司祭であり神聖守護団団長のシャリオット。
そして、王国諜報団の団長であり、稀代の暗殺者と謳われるマール。
唯一、
ただ、今は弟子の一人、聖騎士団団長ゼルディアに
「ふむ。中々の圧を感じるな」
「ああ。ありゃ間違いなく、その辺の奴等より強いね」
鴉丸と六花がその強さを感じ取り、視線を交わすと自然と笑みを浮かべる。
神也のために、より強くありたい。そう思う二人だからこそ、その実力が気になっていた。
「あの人達がスカウトするか決めてるのかな?」
「先日、ブラウからもそう伺いました。上層の者に目を掛けていただけるからこそ、この試験は人気なのだと」
「まったく。正規の入団試験もあるじゃろうに。わざわざ裏口を狙うような事をせねば、入団もできぬとは。嘆かわしい」
「きっと色々事情があるんじゃない? メリー達にはどうでもいいけど」
神也とセリーヌの会話を聞き、苦言を呈した玉藻に、メリーは興味なさそうに話を合わせる。
と、一通り参加者が闘技場の観客席に沿って並んだ後。
反対側の入り口から二人の人物が現れ、闘技場の中央へと歩いてきた。
一人はサルヴァスと同じく、華やかな軽装の鎧に身を包み、腰に輝かしい長剣を差した、二十代くらいの金髪の男。
もう一人は、綺麗なピンク色の長髪をなびかせ、如何にも真面目な雰囲気を漂わせた、片手に何やら不可思議に輝く石板を抱え、片眼鏡を着けた大人びたエルフの女性。
二人は闘技場の中央まで来ると、歩みを止め参加者を一瞥する。
『今回はいつになく多いじゃないか。あの狸親父のせいか?』
こっそり耳打ちするように、金髪の男が眼鏡の女に耳打ちをする。
が、彼女はそれを戒めるように、静かにこう口にした。
『ゼルディア様。既に
『げっ!? まじかよ!?』
風の精霊術、
あからさまに動揺したゼルディアの戸惑いっぷり。そこに
思わず参加者からも笑いが漏れ、席で見守る
特に、ゾルダークは自分の事を口にされたと察したせいか。
顔を赤くし、額に血管を浮かび上がらせながらも、失態を見せないよう、必死に怒りを堪える。
「……サルヴァス。貴様の入れ知恵か?」
「知らん」
怒りが籠った問いかけに、サルヴァスは顔色一つ変えずに短く一蹴する。
「ま、間違っちゃいねーだろ」
「同感です」
逆に、問いかけられていないマールとシャリオットが、平然とそう言ってのけたのを聞き、ゾルダークの心は怒り心頭。
だが、それでも何とか怒号を口にするのを抑えていた。
ゼルディアによって緩んだ闘技場内の空気を戒めるように、コホンと女性が咳払いをすると、賑やかになっていた参加者達が一気に静かになり、ゼルディアも彼女の隣で背筋を正す。
『皆様。ようこそおいでくださいました。
システィと名乗ったエルフは軽く会釈した後、クイッと眼鏡を直し参加者を改めて一瞥する。
『今回の試験は例年通り、隠密系、近接戦闘系、攻撃魔術系、神聖術系の各系統の職業を一括りにし、試験を実施させていただきます。なお、試験の内容に対する成否を問わず、皆様が冒険者となるに相応しいかを見させていただきますので、失敗を恐れず実力をお見せください。また、人数も随分と増えましたので、各系統を順に見て参りますが、試験が終わった者から順に解放致します。それまではこちらから離れないよう、お願いいたします』
彼女の話を聞きながら、参加者達が少し緊張した面持ちになる。
入団を目指すにしろ、冒険者になるにしろ、相応の実力を示さねばいけないのがこの試験。何度も受け直しが可能とはいえ、やはり今回で決めたいと思うのが人であろうか。
『まずは隠密系である盗賊、狩人を希望する皆様から始めたいと思います。該当する皆様は、
呼びかけに応じ、幾人かの希望者は前に歩んでいく中。
「早くもメリーの出番だね! みんな。行ってくるね!」
「お気をつけて」
「大丈夫大丈夫! ダーリンもメリーのこと、ちゃんと見ててよね!」
「うん。頑張って」
セリーヌや神也の言葉にウィンクして応えた後、彼女は笑顔で駆け出していく。
「随分と浮かれているようだが、大丈夫か?」
「あたし達が人間だって、忘れてなきゃいいけど」
「メリーも流石に、そこは分かってると思うよ。多分」
「うむ。
鴉丸を始め、あやかしの皆が半信半疑でメリーの背中を見送る中。
「メリーのことですから。大丈夫ですよ」
「うん。信じてあげよう」
セリーヌと神也は迷いなくそう口にしながら、同じく彼女をじっと見つめていた。
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