第四話:冒険者の適性

 遅い朝食の後、神也達は改めて街に出ると、住人達へ紹介された。


 勿論彼等にとって、あやかし達は不気味な存在ではある。

 だが、セリーヌ自ら彼等を住人として受け入れるよう話があったのもあったが、昨晩の出来事を知るからこそ、住人達も彼等を迷いなく受け入れてくれた。


 そのまま一度セリーヌの屋敷に戻ると、応接室のひとつに通され、少しそこで待たされることになった。

 ローテーブル挟んで置かれた三人掛けのソファーに分かれて座る神也達。

 片方には神也を挟みせつとメリーが。

 神也の向かいには玉藻。その左右に鴉丸と六花が腰を下ろしている。


「我等を街の者に紹介した矢先、街の説明もなく戻ってくるとは」

「セリーヌは一体何を考えておるのじゃ?」

「最初はやっぱり、文字を学ばせる気なんじゃないかい? でないと、住人とのやり取りでも困りそうだしさ」

「えーっ!? いきなり勉強は嫌だなー。まずは外を歩いて、異世界ファンタジーだーって気持ち高めたいし!」

「お兄ちゃんは、どう思う?」

「うーん。分からないけど、セリーヌ姫に従っておけば、間違いはないなじゃないかな」


 妖怪や怪異もいるとはいえ、別に彼等は陽の光を嫌うわけではない。

 各々に疑問や想いを口にしていると、暫くして。


「失礼いたします」


 セリーヌ達三人が部屋に戻ってきたのだが、彼女達はそれぞれ、ちょっとした小物を手にしていた。

 セリーヌは大人の頭より一回り大きい、白銀色の金属杯。

 ザナークはやや大きめの陶器の水差し。

 ゼネガルドは、杯に収まりそうな一回り小さい水晶を手にしている。


「お待たせして申し訳ございません」

「いえ。それは一体何ですか?」


 その場で立ち上がった神也が問いかけると、セリーヌはローテーブルの端に杯を置いた後、場所をザナーク達に空ける為少しずれ、彼の方を見た。


「はい。これから皆様のを確認していただこうかと」

「適性?」


 思わず声が重なる神也達。

 息の合った彼等の声に、セリーヌは微笑みを浮かべるとそのまま話を続ける。


「はい。皆様が冒険者となるには職業に就く必要がございますが、そちらに関係するの比率や量を測ります」

「マジ!? うわー! それめっちゃ気になるじゃん!」

「ほんに、其方そなたは子供じゃのう」


 目をキラキラ輝かせたメリーが、わくわくを抑えられない好奇心丸出しの顔をすると、玉藻は呆れ顔をする。


「何よー。こういうの絶対楽しいじゃん!」

「否定はせんが、そこまで浮かれるものでもあるまい」

「うるさいなー、玉藻はお婆さんだから、こういうのを楽しめないだけじゃん」

「誰が老婆じゃ! わらわはピッチピチじゃぞ!」

「その言い方が古臭いってわかんないかなー?」

「ふんっ。必死に若作りをし、ブリブリしとる其方そなたに言われとうないわ」

「べっつにー。メリーちゃんは若いんですー。変に色気に頼らなくたって、十分みんなのアイドルだもーん」

「何がアイドルじゃ。ケバいだけじゃろ」

「ふん! お婆さんに言われたくない!」

「それはこっちの台詞じゃ!」


 何時ものように、くだらない話から口喧嘩を始め、互いに不機嫌な顔でそっぽを向く二人。

 神也を始め、他のあやかし達は苦笑しながらも、我関せずと会話に割って入りはしなかった。


 そんな中。杯に水晶を入れた後、ザナークより預かった水差しから透明な水のような物を注ぎ込んだゼネガルドは、杯の中を確認した後、納得したように頷くとセリーヌを見た。


「姫。準備ができましたぞ」

「ありがとうございます。皆様、こちらへ」


 ザナークとゼネガルドが後方に下がると、神也達は杯を上から覗き込んだ。

 そこには、透明な液体の中に揺れもせず浮かぶ、薄っすら輝く水晶がはっきりと見て取れる。


「皆様には順番に、こちらの銀杯に両手を添えていただきます。その際の水の色の変化で適性を測ります」

「そういやあんた、さっき闘気と魔力って言ってたけど、あれはどんな違いがあるんだい?」


 ふとセリーヌの言葉を思い出し疑問を返す六花に、彼女は微笑みを崩さず話を続けた。


「はい。闘気は主に戦士や騎士、武闘家などの前衛職が使う術に使用する力で、魔力は魔術師や司祭など、後衛職が使う術に使用する力となります」

「前衛職の術もまた、魔法のような物なのか?」

「いいえ。特殊な技を繰り出す物と思っていただければ。例えば剣術にも剣に炎を宿したりする技が存在しますし、武術にも気を放って遠くの敵を攻撃するような物も存在します」

「ほう。それは中々興味深い」


 神通力以外の力で、自らの剣技がより強くなるのでは。そんな期待の表れからか。答えを聞いた鴉丸がにやっとする。


「ふーん。それだったら、是非とも闘気に全振りであってほしいねぇ」


 鴉丸と目が合い、同じ理由で笑顔を見せた六花もまた、楽しげな顔になる。


「私は、後ろでのんびりしてたい。お兄ちゃんは?」

「うーん……」


 せつに問いかけられた神也は、少し考え込んだ後。


「まずは、結果を見てからかな」


 と、答えを濁した。


 内心、期待している適性はあるし、どのような職業に就きたいという希望もあるにはある。

 だが、それが自分に合っているのか。

 それを選んで皆に迷惑が掛からないか。

 そんな不安が楔となって、思いをそのまま口にできなかった。


「適性については、私達わたくしたちが見ながらご説明いたしますので。どなたから参りますか?」


 セリーヌの問いかけに、あやかし達の視線が神也に集まる。


「僕は一番最後でいいよ。後はみんなが好きな順でやってみて」

「じゃ、私はダーリンの前にしよっと」

「いいの? メリー、あんなに楽しみにしてそうだったのに」

せつちゃんの言い分は最もだけど。やっぱり楽しみは、後に取っとかないと」


 きょとんとして首を傾げたせつに、メリーは再び機嫌良くそう答える。


「そっか。じゃあ、私も後でいいよ」


 納得感があったのか。メリーと同じく後を選択するせつ


「ふむ。となれば、我等三人からか」

「そうじゃな。どうする?」


 残された鴉丸、玉藻、六花が一旦互いの顔を見ると。


「じゃ、あたしから行こうじゃないか」


 そう言って笑ったのは六花だった。

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