撮り逢えず、カメラは。

椎名喜咲

撮り逢えず

 ――いやね。正直に言えば、肩透かしの気分なんです。それをわざわざ、えっと、記者さん? ……ああ、オカルト専門の。はいはい。貴方に教える必要もあるのかなぁ、と思ったりもしたんですけども。

 うちの家内、まあ、いわゆる野次馬根性ってやつでして。インタビューを受けに行けっていうもんですから。仕方なく。本当に仕方なくですよ?

 じゃあ、話を始めましょうか?

 タイトルをつけるとするなら……、やばいカメラ? っていえばいいんですかね? まあ、本当に肩透かしな気分になりますよ?

 私の父がね、いわゆるカメラマンだったんです。そんな売れたもんじゃなかったらしいですけどね。

 その父が今から二十年――いや、二十二年前だったかな。まだ私が中学生だったときに死んだんです。癌でした。

 そのとき、父のカメラが遺品として遺ったんです。このカメラが後々曰く付きだったことが判明しましてね……。

 というのも、父のカメラで何かを撮ろうとするとんですよ。白いものが入ったりとか、上手く撮れない。これが心霊写真なんじゃないかって。

 周りが騒ぐものだから、じゃあ実際に逢ってみたいな、と思うわけじゃないですか?

 ――え、信じてるかって?

 いやいやいや。それは流石に。あ、私も野次馬と一緒ですね。家内のこと強く言えないや。

 どうせやるなら本格的にって言うんで、このカメラを持って心霊スポットに出掛けることにしたんです。私を含めて四人の友人たちで。

 友人は大学の同期です。今に至るまで関係は良好です。こんな心霊スポットにおじさんになっても付き合ってるんだから、やっぱり友人って大事なんだと思いますよ。

 廃病院でした。カメラを持って写真を撮りましたよ。

 案の定、カメラの写りは悪かったです。全然上手く撮れないんですよ。自分の思い通りに撮れないっていうか。

 心霊スポット自体はまあ楽しみました。怖かったけど楽しみましたよ。ああいう体験、歳を食っても面白いって気づけたのが収穫でしたかね。カメラの方は結局何もわからずじまい。挙句の果てには不良品なんじゃないのかって。私も納得しちゃいましたけど。

 最後に集合写真だけ撮りました。

 それで終わりですね。――あ、集合写真見ます? ……あ、わかりました。ちょっと待ってくださいね。

 ……ほら、どうです?

 ちょっと白いものが入ってるっていうか、手ブレが酷いというか。四人分の顔が歪んでるし。

 やっぱり不良品なんですかね……。

 ――ん? それはおかしいって?

 どういうことです?

 ……はぁ。もう一度? 私は確かに四人で心霊スポットに映りましたけど……?

 …………いや、待てよ。

 それだと、おかしいじゃないか?


 


 撮影者は誰です?

 そもそも、私はどうしてこのことに違和感を覚えないでいたんでしょう? 記者さん、これは一体――……、あ、すみません。電話が来てしまって。

 ……はい? えっと。どちら様です?

 えっと、記者さん? 集合時間は確かに……、いや、それよりも。えと、待ってくださいね。

 いや、なんかすみませんね。なんか記者さんが電話に来て。なんかおかしいですよね。あはは……。

 ……。

 …………。

 ……………………。


 あの、すみません。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

撮り逢えず、カメラは。 椎名喜咲 @hakoyuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ