トリあえずひと目惚れしました KAC20246

ミドリ

トリあえず

 俺はハヤブサ獣人だ。


 鳥の中でも猛禽類はモテる。


 結婚適齢期の俺の元には、連日どこかの深窓の令嬢とかがやってきては、着飾った姿で自分を売り込んできていた。


 俺はうんざりしていた。だって、どいつもこいつも自分本来の姿で勝負してない。仕立てのいい服を着て化粧して、お前らはそれでも鳥かって思うだろ。


 どいつもこいつも駄目だ。嫌になって空に逃げると、誰も俺にはついてこられない。


 そんなある日のこと。森の上を飛んでいたら、視界にとんでもなく美しい羽が一瞬見えた。


 あれが俺の探し求めていた相手だ!


 急ぎ旋回し美しい羽の元に急降下する。すると「うわっ!」と驚いた低い声が聞こえた。


 ……低い声?


 降り立った地面を見下ろすと、そりゃあ見事な羽を俺に向かって広げているひとりの鳥獣人がいた。


 男の。


「……トリあえず、お前名前は?」

「おっ、お前が先に名乗れよ!」


 みすぼらしいぼろ切れを纏っただけの痩せた男の羽は見事な半円に広がっていて、美しい。ついでに顔も綺麗で実に俺好みだ。男だけど。


「俺は隼獣人のファルだ」

「おっ、俺は孔雀獣人のコウだっ」


 きちんと名乗るところもいい。男だけど。


「孔雀か、そうかこれが……。トリあえずコウ、伴侶はいるか」

「は!? なんでそんな」

「いるのかいないのか」

「……いねえよ!」


 よし。俺は心の中で拳を握り締めた。


「孔雀は求愛の際羽を広げると聞く。これは俺に対する求愛だな?」

「は!? お前馬鹿か!? これは威嚇だよ威嚇! 突然降ってくるから驚いて――」

「お前の求婚を受けよう」

「は!?」


 俺は隼だ。狙った獲物は最速で捕らえる。


 悲しい顔を作った。


「俺のことが嫌いなのか」

「は!? いや、嫌いだなんて一言も」

「なら婚姻成立だ」

「お前強引だぞ! 人の話を――」


 細いコウの腰をガッと掴み、満面の笑みを浮かべる。


「トリあえずうちで続きを話そう」

「ひっ」


 こうして俺はコウを巣に連れ帰り、男だけど着飾らなくとも美しいコウを俺の嫁にしたのだった。

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