Don’t leave me

宇宙(非公式)

Don’t leave me

 私は世界唯一の忍者だ。唯一なだけで、最強ではない。現代において、忍ぶだけの者にできることなど限られている。せいぜい、警察に、世間に追われる人間を、この世から消すことくらいだ。

 夜道に車を走らせる。誰も照らさないスポットライトが冷めた暗い空気をくり抜いた。

 私の主人、岡田はただの人だ。唯の、それこそ唯一の、人気配信者だ。ただし、岡田は正しい人間にはなれなかった。

 幼い頃、父親が死んだ数年後に母は岡田と再婚した。私は父の葬式に参列しなかったが、その理由は当に忘れてしまった。その母も、今朝亡くなった。そして、私は岡田をこの世から消すため、車に乗り込んだ。

 岡田は国家レベルの犯罪に手を染めたわけじゃない。しかし、国民的な人気配信者が不倫したとなると、一般人が行った際のそれよりずっと、センセーションだ。

 炎上というのは恐ろしい。脅威だし、凶悪だ。喧嘩なんて生優しいものじゃない。もっと生々しくて、血生臭い。それこそ、人を変えてしまうほどに。岡田の女性ファンの一人はいった

「私の手をはなさないで!」

どこか盲信の気配を感じるが、岡田はそれでもファンを愛していたし、少なくともこの言葉に元気をもらっていた。

にも関わらず。今、世間で岡田の味方をする人間など、嫌。表現が適していない。今、インターネット上で岡田を批判していないものなど、一人たりとも存在していないのだ。

「はなさないで」なんてよく言えたものだ。それを言いたかったのは岡田の方であろうに。

 いよいよ、私は岡田をこの世から葬ることになる。

「岡田さん、行きましょう」

「うん。申し訳ないね、このは」

いえ、隠れ蓑は、もともと忍者の得意とするところですから。「離さないで」とは言われたが、

「葉、成さないで」とは言われてない。そんな駄作の洒落を思い浮かべる。言うなれば、現代の忍術だ。

私はふと思う。良心を捨てた社会と、両親を捨てた私。似たもの同士じゃないのだろうか。

そんな私でも、冤罪で社会を追われる理不尽さには憤る。私は二枚の新しい葉をそっと置き、岡田と外へ出た。

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Don’t leave me 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

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